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どう考えても雨宮が加害者で黒田が被害者なのに、課長はそういう枠組みでは捕らえていないようだ。少なくとも二日前からは、この人は雨宮個人を見てくれている。
つくづくできた人で、いつも欲望いっぱいの自分が少々申し訳なくなってくる。
そう言えば、もう脅しは終わったのに、出ていったりはしないんだな……。
食べ終わるまではつきあってくれるということなのかなと解釈し、雨宮は小さくなりながらも食事を再開した。
「……それで、一応聞くが、今日の本題はなんだったんだ」
「本題? あったんですか、そんなの」
「まさか一緒に食事をするためだけに呼び出したわけじゃないだろ」
「そうですけど」
というか、たった三十分ならそれしかできないだろうにと思うのだが、黒田は不可解だとばかりに眉間に皺を寄せた。
「……なぜそんなことをする。私が君に応えられるわけがないだろ」
苦々しい声ながらも、これはいい感じだぞと雨宮は密かに思っていた。
そんなことを聞いてくるということは、脅しがなくなっても黒田は雨宮のことが気になるということだ。
「そうですか?」
挑発するように質問を質問で返すと、黒田はうなるように声を低くした。
「そもそも、私には婚約者がいるんだ」
「その気になれない婚約者が?」
「……それは私の問題だ。彼女のせいじゃない」
「でも俺相手だといけましたよね」
「……」
黒田の眉間にものすごく深い皺が刻まれていく。跡が残るんじゃないかと思うぐらい。
自分を責めているような深刻な顔を見て、なんだかかわいそうになってくる。別にこんなことで虐めたいわけじゃないのに。
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