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雨宮は席に着きながら、自分とは住む世界の違う男をディスプレイの間から垣間見た。
平社員はともかく、課長は絶対、雨宮がクビになることを知っているはずだ。なのに課長は何も言ってくれない。
派遣は全員総務課の所属になっているため、所属的に見れば雨宮の上司は総務課長だが、仕事上の上司は黒田なので、黒田が何も言ってくれないのは不服だった。というか、どちらが言ってくれてもいいのだが、要するに今回のことについて、派遣先からは一切説明がない状態だった。
……こんなものなのかな。俺の存在価値って。
ここに来てから一年余り、一生懸命働いたつもりだった。会社都合で解雇ということだが、一言労いの言葉があってもいいんじゃないかと思う。それが派遣会社の営業に契約終了を伝えてそれで終わりとはあまりにぞんざいだ。
黒田はさっきから生真面目な顔で眉を寄せ、ディスプレイを見ている。きっと難しい案件か何かを抱えていて、派遣が一人辞めることなんて頭の隅にもないのだろう。
そう思うと、雨宮はひどくみじめな気分になった。
それから三日後の月曜の夜、雨宮は会社帰りにとぼとぼと街を歩いていた。
先週の金曜と今日、ハローワークに行ったものの、今の生活を維持できる仕事は見つからなかった。最低賃金の仕事ならあるが、一人暮らしなのでそれで生活するのはきつい。
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