05 え、これって課長に振られた?

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 昼休みのことだ。  雨宮は昼食を済ませた後、自分の席で思案にふけっていた。  顎に手を当てて足を組み、椅子に体重を預けて背もたれを後ろに傾ける。  どこかの私立探偵さながらの渋面を作って考えていることは、だがしかし、いかに課長を手籠めにするかといういかがわしい妄想だった。  課長に告白して聞かなかったことにされてから、何事もなく一日と半日が経った今日は金曜日。次に会えるのは当然ながら三日後の月曜だ。  休み前になんとしてでも具体的な進展がほしいところなのだが、ここは慎重にいかねばならない。雨宮には苦手な方針だ。  どうやら生真面目な課長は、雨宮とは普通の上司と部下の関係で終わらせようとしているようだ。実は昨日も課長がトイレに立ったのを見て追いかけていって夕食に誘ったのだが、トイレにつきまとうのはやめろと叱られ、返事も断固としてノーだった。熱意が空回りした結果の、ちょっとした失敗である。  だけど食事に誘うのも駄目、社内でアプローチするのも駄目って、一体何をどうやって進展させればいいんだ?  結局格好をつけて悩んでみても、そこからアリ一匹分も思考が進まない。頭がぐるぐるしてきて、雨宮はいったん気分を変えようと席を立ち、コーヒーを注ぎにいった。 「あ、雨宮さん、半袖にしたんですね」  給湯室に行くと、コーヒー当番の七瀬が声をかけてくれた。  そう。装いを変えて、少しでも黒田の目を引きたいという魂胆だったのだが、毎日楽しみにしている朝の挨拶は実に普通で、課長は一瞥して挨拶を返しただけでディスプレイに目を戻してしまった。既視感のある反応にますます焦る雨宮なのだ。
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