05 え、これって課長に振られた?

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「うん、最近社内暑いから」 「ですよねー。昨日、テレビで梅雨入りって言ってましたよ」 「まじで」  普通に世間話に花が咲く。些細な冗談をさしはさむと七瀬は楽しそうに笑ってくれた。なんで課長とはこんなふうになれないんだろうと思ったその時、閃きが走った。  そうだ、俺と課長の間には、こういうちょっとした会話が足りないんじゃないか?  課長に自分から進んで服を脱がせるには、北風ではいけない。ぽかぽかとした暖かい太陽のような優しさで会話を重ね、怖くないよ大丈夫だよと安心させなければならないのだ。  そう、名づけて「世間話で太陽作戦」! 「どうしたんですか、急に拳なんか握って」 「ああ、今ね、すっごいいいアイデアが浮かんだんだ」  よくわからないという顔でそれでも「よかったですね」と笑ってくれる人のいい七瀬に、「ありがとう、今日も冴えてるね!」と礼を言って給湯室を飛び出した。  それからさっそく話す機会をうかがったものの、黒田は他の課長と話し込んでいて、やきもきしているうちに昼休みは終わり、雨宮は少しがっかりしながら午後一の会議の準備を始めた。  雨宮の課が主催する定例会議で、雨宮はその議事録を取る係だった。電話会議なので電話で話す装置をセットし、電源の延長コードやLANケーブルを用意していると、社員がぞろぞろと入ってくる。  おじさん連中は席に座ってプリントアウトした資料を広げ、若手社員はノートパソコンをLANに接続してディスプレイを開く。世代の違いが見えてちょっと面白い。 「今日も頼むね」  同じ課の丸橋が雨宮に声をかけてくる。三十前の男性社員で、いつもこの会議は丸橋が司会をしている。機械類が苦手な人で、丸橋から電話会議の準備を頼まれたのがきっかけで、いつの間にか議事録も雨宮の仕事になっていた。
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