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「俺も課長がネクタイつけてる方が好みです。似合ってるし、いつでも縛れるし」
「……」
途端、黒田は赤くなるどころか、ものすごく何か言いたそうな顔で睨んできた。
あ、あれ?
我ながら今のはうまく女王モードに入れたと思ったのにと戸惑っていると、黒田は心底頭が痛そうな顔で雨宮の腕をつかみ、逆方向に歩き出した。
「え、どこに……」
「いいから来い」
有無を言わさず引きずるように連れていかれたのは、先ほどの会議室。もう全員解散しているので誰もいない。
ブラインドが閉まっているので薄暗い中、電気もつけない状態で、黒田は雨宮に向き直った。
黒田に睨まれると怖い、ということを雨宮は今、初めて知った。
「この際だからはっきり言っておくが、君の気持ちには応えられない」
今までにない明確な、拒絶。
さっきのエアコンのことで浮かれていた気持ちが、一気に床に叩き落とされる。
しかし突然言われても納得はできない。嫌われているとはどうしても思えないのだ。
「あのそれは、婚約者がいるから、ですか」
食い下がると、黒田は顔をしかめ、長机に手を置いた。その音は大きくはなかったが、いら立ちを表わすように会議室に響き渡った。
「婚約者がいようといまいと、男同士でつき合うなんて私には考えられない」
「で、でも、あの」
俺相手には感じたじゃないですか。
そう言おうとして、課長の顔を見て。
そんな下世話なことを言っていい雰囲気ではないことぐらい、さすがの雨宮でもわかった。
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