01 課長を脅して亀頭責め

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 雨宮の足はふらりと、歓楽街に向かっていた。自分の古巣がそこにあるのだ。  大学に入学してすぐ、自営業をしていた両親を事故で亡くし、雨宮には多額の借金が残された。雨宮はそれをゲイ向けの風俗店で働いて完済した。それが二年前の話だ。  それから半年間、風俗で貯めた金で専門学校に通って資格を取り、やっと今の仕事にありつけた。その時はまだ好景気だったので、思えば運がよかったのだ。 「……」  店の前の道路脇には、今日も電飾の看板が置かれていた。店は地下にあり、看板の後ろの階段を降りれば、そこに「アンダーパラダイス」がある。雨宮が五年ほど勤めた古巣だ。  嫌な思い出ばかりではなかった。雨宮は線が細く中性的な顔立ちだが、その優しげな容貌に似合わないどSなキャラ作りに成功し、常連には「女王様」ともてはやされていた。  向いていると店長に言われ、完済後も続けることを薦められたが、カタギの世界でもう一度やり直したいという気持ちが雨宮をここから抜け出させた。  ……戻りたくない。  雨宮はぐっと拳を握り、店に背を向けた。だが、翌月には自分はここにいるんじゃないかという予感が頭から離れない。  このまま自分は終わるのか。表の世界で何もできず、いなかったみたいに忘れられて。  その時、ぽつっと顔に水滴が当たる。急に降りだした雨に雨宮は顔をしかめた。  苗字に「雨」がついているので、何かあると雨男じゃないかとたまに言われるのだが、断じてそんなことはない。本降りになる前に走って家に帰るか、どこかで雨宿りするかと周りを見回し――偶然、それが目に入った。
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