679人が本棚に入れています
本棚に追加
眉間に皺を寄せ、今までで一番というぐらい、苦々しい顔だった。
迷惑……なんだ、俺。
瞬間的に、そう解釈した。
「君は軽々しく考えすぎだ。こういうことには偏見がつきまとう。君だってわかるだろう」
それを言われれば、返す言葉はない。
雨宮と違って黒田には守るべきものがたくさんある。今の仕事とか社会的地位とか世間体とか。
男同士でつき合って、リスクを負うのは断然黒田の方だ。
思えば今の交際相手は専務の娘で、出世街道まっしぐらコース。
自分は快楽は与えられても、そういうものは与えられない。むしろこの人からそれを奪うことになるかもしれない。
そういうことを暗に言われたのだと思い、雨宮はくしゅんとなってしまった。
そんな雨宮を見下ろし、黒田は静かに息を吐いた。
「私にとっては、君は部下だ。それ以上でもそれ以下でもない。わかってくれるか」
「……はい」
黒田の声が少しだけ和らいでいたのが、せめてもの救いだった。
もう今度ばかりは前向きな要素を見出すことは、雨宮でもできなかった。
最初のコメントを投稿しよう!