06 振られてしょぼん。だけど課長は優しくて?

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 それから三日後の月曜の朝。  雨宮は自分のアパートでいそいそと出勤の準備をしていた。  先週の金曜日に黒田にはっきり振られたものの、雨宮は全然吹っ切れていなかった。  吹っ切るどころか金曜の夜から何度も課長をおかずにして、妄想はますますエスカレートしている。今も課長に会えると思うと落ち着かず、用もないのに早めに会社に行こうとしている始末だ。  その時ふと、玄関のドアについている郵便受けのブツに気づいた。 「……なんだこれ」  取り出すと、封書には「市・県民税通知書在中」の文字が見えた。  やばい。  雨宮の派遣会社では住民税が天引きされないため、六月にどんと請求が来るのだ。開けてみると、一ヶ月分の家賃よりまだ多いぐらいの請求額だった。 「……」  債務というのはいつ見ても、どきっとして心臓に悪い。風俗をやって借金を返済していた時の、自分は自由じゃないというあの閉塞感が胸によみがえるのだ。  金さえあるなら今すぐ全額払いたい勢いで通帳を見たところ、それだけの額を一括で払える貯金はぎりぎり、なかった。  貯金がないのは贅沢をしていたからではない。家賃を払って一人暮らしをするだけでも大半の金は消えていく。背広やワイシャツをまったく持っていなかったため、季節ごとに服を買い足していたのも結構な出費になった。さらに一番の痛手は、資格取得学校にまた通い始めたことだ。今はお金を貯めるよりスキルを身につける方が大事だと思い切って、先月、数万円の受講料を払ったのが裏目に出た。  契約終了を宣告されてからわずか十一日目にして、雨宮は生活の破綻に直面した。
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