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二人で並んでごそごそと棚を探していると、思い出したように黒田が言った。
「指、はさんだことあるのか」
「ちぎれるかと思いました」
途端、さっきの息の音がする。横を見ると、黒田が小さく笑っていた。
……うわ、笑った。初めて見た。
黒田の笑顔は口溶けチョコレートみたいにすぐ消えてしまったけど、顔に笑みの余韻は残っていて、その横顔に雨宮は見惚れていた。
今までのエロ一直線の衝動とは違う、黒田を好きだという気持ちが、じわじわとじわじわとあふれてくる。
いつの間にだろうか。普段の生真面目なこの人のことも、愛しいと思うようになっていた。
黒田の笑顔が見られて嬉しい。
だけど同時に、かき氷を食べた直後みたいにツンとした痛みが胸に突き刺さる。
……課長は割とひどいと思う。
振った後に、こんな笑顔を見せるなんて。
それとも、自分がただの部下になったからこそ見せてもらえた笑顔なのだろうかと、雨宮は切ない気持ちで課長から目をそらした。
だから。
その後黒田が、気遣わしそうに雨宮を見ていたことに、気づくことはなかった。
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