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「あの店、よかったですか?」
「……まあ……普通、だ……」
必死に平静を保とうとして、店に入ったことを認めてしまった黒田に、雨宮は笑みを深くする。
「ふぅん、その割にすっきりしない顔ですね。もしかして、達けなかったとか?」
「……ッ!」
ごまかすこともできずに頬に朱を散らす黒田を見て、ああこの人嘘がつけないんだと確信しながら、雨宮の興奮はいよいよ高まってきた。
いける。これなら脅せる。
予想以上にうまく事が運び、真っ先に浮かんだのはこれでクビの取り消しを迫るということだが、それはあまりに現実味のない話だった。採用の権限を持っているのは黒田ではなく総務課長であり、今さら黒田が決定を覆せるとは思えない。
雨宮は考えた。この貧弱なネタでそこまでは望んでいない。ただ一晩、憂さ晴らしがしたいだけだ。
「どこかで口直ししませんか? このまま帰っても虚しいだけでしょうし」
「口直し……?」
雨宮が無遠慮に黒田の腕をつかむと、黒田は体を強ばらせた。そんな黒田の顔をのぞき込み、見せつけるように笑う。
「ほら、雨も本降りになってきましたし、どこかで雨宿りでもしましょうよ」
小雨に濡れながら黒田の腕をつかんで歩き出すと、黒田も引きずられるようにだが、それでも自分の足で歩いてついてくる。
今、雨宮の言葉に、黒田は逆らえない。
その状況に暗い満足を覚えながら、雨宮は黒田を近くのラブホに連れ込んだ。
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