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04 課長の反撃にめろめろです
そして、その日の七時過ぎ――。
行かないと主張しながらも、結局時間通りに待ち合わせに来た黒田を首尾よく連れて、雨宮は飲食店に入っていた。
路地裏の小さな店。十人足らずの客だけで店はほぼ満席になる。おいしくて値段もそこそこなのでちょっとした穴場なのだ。
「お口に合えばいいんですけど」
向かいに座っている黒田に聞くと、トンカツ定食のカツを口に運びながら、黒田は仕方なくという感じで感想をこぼした。
「まあ……普通においしいが……」
「そうですか、よかった。俺、他にもいろいろお店知ってますよ。派遣の佐久間さんが結構おいしい店教えてくれるんですよ。あと、社員さんだと丸橋さんが割と知ってますよ。独身寮の周りは網羅してるみたいです」
「……」
黒田はうつむいてトンカツを黙々と食べている。定時で退社した雨宮と違い、課長は会社を三十分抜けてきているだけなので、あまり時間がないのだ。
ともあれ、昼食を抜いているせいか食欲は旺盛で、それを見て雨宮は少しほっとした。
「あ、ちょっと、トイレ行ってきます。荷物ここに置いていっていいですか」
「……ああ」
余裕をかましてはいたが、実は課長が本当に来てくれるかどうか気になって、三十分前から待ち合わせ場所が見えるコンビニで待機していた。
コンビニは涼しくていいんだけど、長くいると冷えるなぁと思いながら用を足して、ついでに鏡の前で軽く身繕い。
悠々と戻ってきて、席に着いたところで雨宮はそれに気づいた。
自分の携帯がテーブルの上に出ている。鞄の中に入れておいたはずなのに。
課長を見ると、ああ、と黒田はなんでもないように言った。
「私の写真、削除させてもらったぞ」
「えっ」
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