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side:死神
冷たい風が身を切り裂く。
落ちている。
そう気がつくまでに、少し時間がかかった。
――あぁ、ドジッたんだ。
逃亡の途中でうっかり足を滑らせ、地上へ続く穴に見事に真っ逆さま。
――……情けねぇ~
罪人の烙印を刻まれ、忌々しい呪いをかけられて、それでも、殺される前に脱獄できたのはいいものの。
得意の魔力も封じられ、今では為す術もなく俺は落ちていくのみ。
これでは地上に激突して御陀仏ではないか。
逃げた意味がまるでなし。
けれども、現在どうしようもないというのも事実である。
天界から地上への突然の急降下に、俺の身体が悲鳴をあげている。
普通の奴等だったら即あの世逝きだが、俺は普通の奴等より“少し”特殊だからこれぐらいでくたばりはしない。
だが、墜落飛行機の如くこのまま地面に激突したらどうなるかは分からない。
激しい風が身体を取り巻き目を開けていられない。
――やばい、だんだんと意識が混濁してきた。
もういっそ意識を手放したら楽に逝けるか……?
いや、世の中そんなに甘くない。
俺は無理矢理目を開いて、序々に迫りつつある地上を見据えた。
辺りが薄暗い所を見ると、地上は夜であるようだ。
何かでっかい細長い建物が見える。
――あれは……?
次第にそれが何か鮮明に見え始める。
それほど地上に近づいているということでもあるが。
――……時計塔
それが理解できた瞬間、俺の瞳はある光を捉えた。
夜の闇の中、月の光のような輝きを放つ金の髪と、エメラルドのごとき碧の瞳。
人間がいた。
そう。
これが――俺とあいつの出会いだった。
***end
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