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side:怪盗
いつもと変わらない日常だった。
いつもと変わらない日常のハズだった。
〝仕事″の後は、時計塔に行くのが僕の日課だ。
その日もいつものように時計塔に上り、夜風に吹かれながら眼下に広がる街並みを眺めていた。
これといった予感も前兆も何もなかった。
あったとしたら、それは“魔女の予言”だ。
『空からの落とし物に注意しなさい』
わけのわからない魔女の予言はいつもなら気にしない。
信じてないというわけじゃない。
魔女の予言は絶対だ、ということは身に染みてわかっている。
確かにハズレないのは事実なんだけど、……どうも信じるのが癪なんだよね。
まぁ、これは個人的な感情だが。
それはさておき。
あの時あの瞬間、僕が空を見上げたのは偶然にすぎなかった。
いや……あの魔女に言わせるなら『偶然なんかじゃない』
“運命”
なんて言葉は、現実味がないけれども。
そう、偶然じゃないなら、それは僕の運命だったのかもしれない。
いや、僕たちの運命だったのかもしれない。
まず見えたのは、煌々と輝く月を背景に、夜の闇と同化するような黒いローブ。
そして、月の光を受けて淡く輝く長い銀色の髪。
落ちてきた“彼”と目が合ったのは一瞬だった。
その一瞬に、僕は飲み込まれた。
まるで紅玉のような紅い瞳に僕は囚われた。
後のことは正直よく覚えていない。
無我夢中で落下してきた彼を助けようと、尽力をつくした。
もう一度それをリプレイしろと言われても無理かもしれない。
それはあまりに突然で、あまりに現実離れした出来事だったから。
そう。
これが――僕と彼の出会いだった。
***
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