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「君はエルフだね?」
問い掛けたのは、まだ幼さの残る金茶色の髪をした少年だった。問われた方の少年はそれより少し大人びており、鋭い目つきで見返したまま、返事をしない。
「私の名はフェデル。私とそう歳の変わらぬエルフと会ったのは初めてだ」
幼い表情とは裏腹に、老成した口調で言った。
「君はなぜ海辺のこんなところにいるの?」
フェデルの問いにエルフの少年は堅い表情を崩さず、警戒心を露わにする。
「私は初めて海に来たのだ。こんなにも大きく、青くて綺麗だとは想像もしていなかった」
エルフの少年が興味のない顔で無言を貫いてもなお、海のような瞳を輝かせた少年は話し続けた。
「少し海辺を一人で歩いてみたくてね、しばらく波打ち際を歩いていたら浜影に君を見つけたんだ」
まるで宝物でも発見したかのように弾んだ声だ。
「君のようなエルフに会うのは初めて。黒い髪とおそろいの素敵な黒い瞳だね。宝物庫にある漆黒の玉のよう」
そう言われたエルフの少年の黒い瞳がぐらっと揺らいだかと思うと、次の瞬間、フェデルの胸ぐらにぐいと掴みかかっていた。
体格差があるから、フェデルの小さな身体が地面から少し浮いて、首元を締め付けるような格好になる。エルフはそんなことを気にも留めずフェデルを睨みつけ、掴む手にさらに力を込めた。
「俺の前から消えろ」
「な…ぜ?私は、ほんと…のことを…言っ…」
「黙れ!!」
フェデルの身体が軽々と跳んだ。
そのままの勢いで砂浜に叩き付けられ、フェデルはぐっと痛みに顔を歪めた。エルフの少年は怒りに満ちた表情を浮かべたまま、肩を震わせている。
「俺に近づくな。次はただではすまさない」
「いやだ」
「はああっ!?」
すぐさまフェデルが言い返すので、エルフは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「おい…俺の話を聞いていたか?ただではすまなさないと…」
「失礼なことを言ったのなら謝るよ。でも私は本当にそう思ったから」
フェデルは衣服を払って体勢を整えながら、にっこりと微笑んで言った。
想定外の反応に怒りの矛先を失って、エルフは唖然とした。
「…お前には分からないかもしれないが、この見た目はエルフでは異形だ」
「異形?」
「この漆黒が不吉」
「分からないな。私の周りにもエルフが幾人もいるけれど、君は特別に素敵だよ。それにとても強そうだ」
「…っ」
フェデルのまっすぐな物言いに、エルフは言葉を詰まらせる。
フェデルはふふ、と笑って言った。
「君はひとりなの?」
「ひとりでここに住んでる。両親は死んだ」
「そうなんだ。…寂しい?」
「寂しくない」
完全にフェデルのペースに乗せられて、エルフは答えた。
「じゃあ、私と一緒に行こう」
「はぁ!?なんで今の会話の流れでそうなる!?」
エルフは怒りを通り越して呆れ顔だ。その様子にまた微笑んで、フェデルはすっとエルフの手を取った。
「な…?」
「私は最西の国ウェーネルデの第3皇子だ。我が国にもエルフたちがいる。彼ら傭兵たちはとても強い。だから君の力を私に貸してはくれないか」
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