If you can meet again someday.

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If you can meet again someday.

不意打ちに訪れる地響きにふらつきながらも、御神は背負った神崎を落とさないように必死に足を踏ん張る。 瓦礫に足を取られそうになるのをこらえ、決して足を止めることなく、御神は背中へ呼びかけ続ける。 「神崎さん、神崎さんッ……!」 御神に背負われ、ぐったりと目を閉じた神崎は虫の息だ。 「大丈夫です、すぐ、もうすぐ脱出できますから!」 歩みを進めるごとに、血で滑りずり落ちそうになる神崎の身体を慎重に背負いなおす。 相手の身体に負担がかからないように。 「神崎さん、大丈夫です、今度は僕が、必ず助けますッ……!」 もっと早く走りたいのに、もっと急いで進みたいのに、歩みは遅い。 御神は決して非力なわけではないが、さすがに自分と同じくらいの身長の人間を、しかも意識のない人間を運ぶのは重労働だった。 「絶対に、助けるッ……!」 足元へ視線を落とせば、血で汚れた自分の衣服が目に入る。 元々は白色だった衣服は、今は上下ともに赤く染まってしまっている。 しかしそれは、御神自身の血ではなかった。 この赤は、衣服に染み込んだこの血はすべて、神崎のものだ。 自分が傷つけた。 神器で斬り刺し、素手で殴り蹴り、彼をこの手で傷つけたその感触を、御神は覚えている。 自分が彼をここまで瀕死に追いやったのだ。 神崎は、文字通り命を懸けて、御神を救いに来た。 だから今、救われた御神は瀕死の神崎を背負い、出口を目指している。 「神崎さん、神崎さんッ……!」 息が上がるのも構わず、御神は名前を呼びかけ続ける。 返答がないのはわかっている、それでも、呼びかけずにはいられなかった。 本来なら、動かさないで救助を待った方がいいほどの傷だった。 しかし、いつ崩落するかもわからない場所で、いつ来るかもわからない救助を待ち続けるわけにはいかなかった。 神崎が所持していた救急セットで最低限の応急処置はしたが、止血剤も止血帯も鎮痛剤も何もかもが足りなかった。 先を急ぎ焦る御神に、さらなる不幸が見舞う。 進行方向から、鬼の気配と複数の足音が近づいてくる。 ここで鉢合わせるか、と御神は苛立たし気に奥歯を噛み締める。 どうする、と御神は瞬時に考えを巡らせる。 戦わずに逃げる方法はないだろうか。 「あ・そ・ぼ」 「アソボウ」 鉢合わせた瞬間、遊び相手を見つけて笑う鬼を見て、御神は自分の甘い考えを即座に捨てた。 「そこを、どけ」 御神は威嚇するように足を踏み出すが、鬼は怯むことなく近づいてくる。 神崎を背負っていては、攻撃も反撃も回避も難しい。 なにより激しい動きは、神崎の怪我に響いてしまう。 自分の身体を盾にして正面突破を試みるか、鬼の数は六体、なんとか逃げ切れるだろうか。 「おまえたちと遊ぶ気はないっ!」 御神の怒鳴り声も空しく、両手を広げた鬼たちが捕まえようと迫ってくる。 せめて神崎だけでも逃がさなければ、と身構えた御神の耳にそれは届いた。 「御神くんっ! 伏せてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 確かに聞こえた聞き覚えのある声の指示に、御神は半ば反射的に従った。 素早く膝をついて身をかがめると、背負っていた神崎を転がすように地面に寝かせ、庇うように覆いかぶさる。 「【遊技・風車】!!」 直後、御神の頭上で、容赦なく風の刃が吹き荒れる。 高速で回転しながら飛来する二対の鉄槌が、鬼たちをなぎ倒す。 突然の背後からの襲撃に、鬼たちも対応できず、ものの数分で一掃された。 「御神くんっ! 神崎っ! 無事!?」 戦闘の音が止み、おそるおそる顔を上げた御神は、駆け寄ってきた神埜の姿を確認して安堵を覚えた。 同時にハッと我に返った御神は、慌てて地面に寝かせていた神崎を抱き起す。 止血帯代わりに巻いていた羽織りは、染み込んだ血のせいでずっしり重くなっている。 「神埜先輩っ! か、神崎さんがっ……!」 救援が来たことによる安堵からか、思わず情けない声が出てしまう。 助けを求めるように御神が神埜を見上げた時、だらりと力なく垂れていた神崎の腕がゆっくりと持ち上がり、そっと御神の頬を撫でた。 御神、と小さな声で囁かれた名前に、御神ははじかれたように神崎を見つめる。 「神崎さんッ……! 気が付いたんですね……!」 頬に触れた冷たい指先に、内心で焦りを覚えながらも、御神は自分の熱を分け与えるように神崎の手の上に自分の手を重ねた。 ゆっくりと瞼を開けた神崎の焦点の合わない瞳が、少し宙をさまよってから御神の姿を捉える。 「――……」 御神に何か伝えたいことがあるのか、神崎が口を開くが、細い吐息が零れるだけで音は紡がれない。 血の気を失った顔色は蒼白で、御神の胸を苦しくさせる。 もどかし気に揺れる神崎の瞳を見つめ返して、御神は焦る心を抑えるように努めて冷静を装い口を開く。 「神崎さん、無理に喋らないでください。傷が塞がっていないので、出血がひどいんです、だから、血が足りてなくて、でもここじゃ、治療もできなくて……」 頬に添えられた神崎の親指がわずかに動いて、そっと御神の目元をぬぐう。 それで初めて、御神は自分が泣いていることに気が付いた。 「神崎さん……」 涙を流す御神を見つめる神崎が、とても嬉しそうに微笑んだ。 こんな状況で、そんなボロボロな状態で、どうしてあなたは笑えるんですか。 かき乱される御神の内心をよそに、頬に触れる神崎の冷たい指先にわずかに力がこもった。 ちょっと耳貸せと、眼で訴えてきた神崎に従い、御神は身をかがめて彼の口元へ耳を寄せる。 浅い呼吸が耳朶をくすぐる。 「……御神――…ありがとう」 安堵の滲む吐息のような囁き声が、耳に届いたのを最後に、御神の意識は突然途切れた。 ***
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