第10話 灯台もと暗し

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 なななななな、なんという事でしょう。  それは匠もびっくりな発言だ。  そんなの、今まで一切、匂わせなかったくせに。 「だから、許したんじゃないか。あんな痛い事を。大海なら、いいって思って」 「俺の気持ち、知ってたのか?」  驚いた。  俺は、彼女をとっかえひっかえ作って、気持ちを誤魔化してきたのに。  兄貴にこの思いを匂わせないように努力してきたのに。 「薄々は……。僕の部屋によく間違えて入ってくるなぁ、とは思ってた。けど、そういうのって何か決定的なものがないと分からないじゃない? 確信持てずにいたんだ。だから……まあ、知った時は、それなりにびっくりしたけど」  俺が兄貴の部屋を暇を見つけては乱入していたのも、分かっていたのか。 「決定的に知ったって、どういう事? いつ?」  俺はちょっと狼狽えて、聞いた。  すると兄貴は 「僕は主夫だから」 「?」 「僕が、いつものようにお前らの部屋の掃除して、ゴミ箱の中身も片付けたら、お前の書き損じ手紙があって……つい、 『大海は、何、書いているのかな?』 って興味本位で読んじゃったんだよ。そうしたら、……そういう事、書いてたから……」 「あ!」  それで、『かしこ』の俺の恥ずかしい間違いも知っていたのか。 「それなりにびっくりはしたけど、不思議と嫌じゃなかった。なんだか妙にわくわくするような、そわそわするような気持ちで胸がいっぱいになって、しばらく動けなくて、一人で床ドンしていた。そして僕は……大海にこんな風に好かれて嬉しいんだと気付いて……」  兄貴は、語尾を濁して、そのまま恥ずかしそうに俯いた。 「あ、じゃあ、あの時『一途になれ』って言ったのは……?」  俺が彼女に振られた夜=俺たちの初めての夜のことを思い出して聞くと、兄貴が更に赤く なった。 「ぼぼぼぼぼぼ、僕に一途になってくれたら……と、ちょっとだけ思って…… 」 (なに、これ=兄貴、可愛い……)  だけど素直ではない俺は、 「……兄貴、それなら、そうと早く言え……。性格、悪い」  激かわ兄貴から、目を離せずに、棒読みにもそう言うのだった。 「Hを焦らすような性格悪いお前に、言われたくない」  まあ、兄弟だし。  その辺の性格の悪さは、似ているか。 「兄弟モトクロスっていうもんな」  幸せって身近にあるもんだ。  童話の「青い鳥」でもそういうこと、言ってたよな、確か。  俺は兄貴の事が大好きで、兄貴も三次元なら俺の事が好きでいてくれた。 「大海……。多分、それ、『灯台もと暗し』って言いたいんだよね?」  俺の言葉を暫く考えて、兄貴がそう突っ込んだ頃、 (いつかきっと、二次元でも三次元でも兄貴の一番になってやろう)  俺は、心の中でロードローラーを走らせ、ひたすら決意を固めていた。             -了-
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