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序
人生のいつまでを青春時代と言うだろう。
それは人によるだろうけれども、彼女の場合は、人よりもうんと長かった。きっと、生きている限りのすべての時間がそうであると言えるのだろうから。それがいいのか悪いのかはわからないけれども。
別に、ずっと少女のままでいたいとか、このままでいたい、などと思って過ごしてきたわけではない。本当に少女の頃は、そう思っていたかもしれないが。さすがにそれなりに歳も取ってくれば、そんな思い上がりはしない。
ただ、巡り巡って来るものが、長い時間をかけただけだ。
彼女はずっと、眠る前に祈ることが秘かな習慣になっていた。
神様というものがもしいるとするならば、どうか、私を素直で可愛い子にしてください。
そんなこと、祈るようなことではなく、実践するものだろう。大概の人はそう言うのだろうけれど、それができるならば、神頼みなどしない。
そう、自分は素直になってはいけないのだ。祈る自分の横で、そうやって自分を雁字搦めにしなければならない理由もある。
それを意識し始めたのはいつ頃だったか。
はっきり覚えている。兄の恋人と初めて会った日だ。それから、ずっと、しっかり本音は胸の内にしまい続けてきた。
好き、という気持ちに種類があるとすれば、そのどれであっても、自分の中で否定したい気持ちもあったし、だからといって、絶対捨てたくはなかった。
だから、少しずつ、少しずつ、捻じれて行ってしまった。
本当の後悔というものが、見えないままで。気が付いた時には遅いはずだった。
そのはずなのだけれど。
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