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彼女からコートを受け取りソファの背に掛ける。
「あとひとつ、教えて」
聞かずには帰れない。あの時、どうして君は。柚希じゃなく俺の名を呼んだの。
肩に触れていた柚希の手が宙を掴んで放された。あの時はただ、柚希を遠ざける為に莉奈が咄嗟に俺に救いを求めたのだと思った。
「教えて、莉奈」
「あの時……」
思い出して刹那に莉奈の瞳が揺れる。それでも聞かずにはいられない。
「わからない、でも」
「でも、なに?」
彼女の前に歩み寄る。身を屈めて俯いた顔を覗き込んだ。
「……いて欲しかったの」
絞り出したような震えた声。どう答えたらいいのか、莉奈が思い悩んでいるのが伝わる。
「そう、了解」
十分過ぎるほどの答えだと、きっと莉奈は気付いていない。柚希を前にして俺を求めてくれたのなら。まだ君を、愛していてもかまわないだろうか。
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