2話、貴族のオオカミくん

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2話、貴族のオオカミくん

2話、貴族のオオカミくん 声の主は吸い込まれそうな赤い目と、今にも地面につきそうなほど長い白い髪をした中性的な顔の少年だった。 それにしても、白い髪? この世にそんな珍しい髪をしているようなヤツがいるなんてありえねぇ、もしくは薄い金髪と見間違えているのかも知れないな。 クソっ!暗くてわかりにくい! ブランドとかには興味のないオレでもわかるがそのガキの鳶色のコートはどう見ても高級品だ。 「その視線から察するに、君も見慣れてはなさそうですね僕の外見に…」 白髪のガキは自分の髪をいじりながらそう言った。 「ところで君は?見るからにフリーゲンへ入国したばかりのようですが…」 「あのなぁ、名を知りたければ自分から名乗れよ」 「おっと これは失敬、僕は"ルーポ"。ルーポ・ディアマント、今はフリーゲンの貴族です」 き、貴族!?貴族ってあの土地の領主サマか? なんでそんなヤツが愛犬らしき犬どもを連れてこんな廃墟に…? 「こう言うのは野暮ですが、窃盗を働いた少女を追わなくて良いのですか?」 ルーポというガキにそう指摘されたのは癪だが、暴漢どもを相手にしていて気づかなかった。 そういえばオレは花売りのガキから財布をスられて追いかけていたところだった。 「追いかけたところで もう遅いです、彼女はもう逃げてしまいましたよ」 「どういう事だ? まさかオマエ、グルなんじゃ…?」 「疑り深いですね…そんな端金、ストリートチルドレンの彼女にプレゼントして差し上げたらいかがです?」 なんだコイツ…人の財布をはした金呼ばわりしやがって、この小僧イライラするな。 こっちは一文無しってのに! しかもオレを後目にして犬どもに「グッボーイ」とか言って褒めやがるし。 「まぁ、ここで会ったのも何かの縁です。僕の屋敷に泊めて差し上げましょうか?」 「……随分と気前が良すぎるじゃねぇか、お貴族サマよぉ?」 「英国に男子として生まれてきたサガですね、それに僕は一期一会を大切にしますから」 そう言うとルーポは満面の笑みを浮かべた。 怪しすぎる。 コイツ…まさかオレを泊めるのが目的だろうか? そうでないとしても話の都合が良すぎるな、何か企んでやがるな。 「どうかなさいましたか?」 「………やる」 「はい?」 「泊まってやるって言ってんだよ」 オレはどっちみち一文無しだ、コイツの屋敷は想像つかんが久々に暖かいベッドで眠れそうだ。 「君の名をまだ聞いていませんでしたね」 「オレはヴォルフ、それ以上でもそれ以下でもねぇ」 「お帰りなさいませルーポ様、それとこの小汚い下賎は?」 髪も服も灰色の執事がそう応えた。 確かに俺の身なりはキチッとしていない。身体中は血と汗に塗れ、着流しもボロボロだ。 だが初対面に下賎って、テメェもドバトみてぇな見た目じゃねぇか。 「客に対して無礼ですよクルソニー、無駄口を言う暇があるなら お湯を沸かすのと客間に紅茶を出すようにしてください」 「はっ、畏まりました」 クルソニーと呼ばれた執事はオレの事が気に食わねぇのかルーポに気づかないようにガンをたれて後にした。 「さて、こんなに汚れてしまっては可哀想ですね…。ヴォルフ、浴室をお貸しします。お湯の支度が出来たら自由に使ってください」 ルーポはオレの頬を軽く撫でて悲しげな表情をした、それはまるで拾ったばかりの汚れた大型犬を見るかのように…。 クソッ!誰が犬だ!しかも呼び捨てかよ! だがコイツの行動は無下に出来ない。 「着いてきてください、客間に通します」 俺はルーポの後を付いて行った。 屋敷の中はイロイロな部屋があり まるで迷宮だ、こりゃ便所1つ探すのも一苦労になるぜ。 「ここが客間です」 ルーポは客間のドアを開けて手招きをした。 「入っていいのか?」 「ええ、勿論です」 客間に入ると、嗅ぎ慣れてない高級そうな紅茶の匂いがした。 「アッサムのロイヤルミルクティーです、身体も冷えているでしょう?」 「ああ、スマンな」 アッサムは茶葉の名前か? ミルクティー…なんてハイカラな飲み物なんだ。 いや ここはフリーゲン、ヨーロッパだ。ハイカラな飲み物なんて腐るほどあるだろうな。 オレはこれまた高級そうなティーカップに口をつけた。 「うめぇ…」 ミルクティーってこんなに美味いものなのか? 日本では銀座かどっかのカフェーでバカ高いイメージがついていたんだがな。 紅茶のわずかな渋みとミルクの甘みも感じる、だが飲み干すと少し苦い気もしないでもない。 「お口にあって良かったです」 ルーポはそう言うとまた笑みを浮かべた。 俺の思い違いだな、どうやらコイツは本当にオレを饗そうとしているらしい。 それからオレは風呂に入り、用意された服に着替えて食事も済ませた。 「悪いな、それらしい服もメシや風呂にも入らせてもらってな」 「いえ、当然の事をしたまでです」 今のオレは高級そうなバスローブだ。 「それにしてもこれ 高いんじゃねぇのか? どうも落ち着かねぇ!」 「僕の気持ちです、遠慮なくもらってください」 やはり落ち着かねぇ! この高級感の匂いも、肌触りも。 「あとは寝るだけだな」 「ええ、そうですね。それに対価はキッチリと払って頂きますよ…」 するとルーポはオレに向かって歩みを進めると、オレの唇に自分の唇を重ねた。 「身体で…クスクス」 不穏な空気が漂うなか、少年はそう笑っていた。
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