6話、気高き貴族には ご用心

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6話、気高き貴族には ご用心

6話、気高き貴族には ご用心 「君、アーデルハイトに一目惚れしましたか?」 「ハ、ハァ!?」 ルーポの図星な回答にオレは思わず狼狽えてしまった。 「クスッ…分かりやすいですね」 「だ、だったらなんだって言うんだァ?」 不敵な笑みを浮かべるルーポに対して、オレは精一杯強気な態度を取った。 そう、オレは仮にでも極道モンだ。 いつまでも お貴族サマに押されるなんぞ、男の恥だ。 「そう怯えないでくださいよ……」 ルーポはオレの胸ぐらをいきなり掴んでキスをしてきた。 クソッ…、女みてぇにか細い腕にこんなに力があるなんてっ…。 口腔を貪られ、あの嫌なアールグレイの味がする……。 慣れない感覚が口を通して響き、またオレはされるがままになってしまう。 その気になればガキの一匹くらい、この拳で一掃出来るのにッ……。 「んっはぁ……ヴォルフ ヴォルフ ヴォルフ ヴォルフ……、嗚呼 ヴォルフ!」 ルーポは念仏を唱えるかのようにオレの名を呼び、またキスをしてきた。 チュッとした軽いものから、口内を貪られる深いものから。 オレは必死に抵抗をしたが上手くいかねぇ。 ルーポはオレの胸ぐらと唇から手を離した。 オレは戦意を喪失して壁にもたれかかった。 そのときだった。 「「クーン…!!」」 「おや?」 ルーポが見た先には いつぞやの大型犬どもが座っていた。 いや、いつぞやの犬はドーベルマンとロシアンウルフハウンド(現在のボルゾイ)の2匹だったが、今はレトリバーにシェパード、そして小柄に見えるのはコリーだ。 「おやおや 君たち、そんな悲しそうな声で鳴かれてしまったら ご主人も悲しくなりますよ?」 でかした!犬ども!! ルーポの視界がオレからそれた! 「レノ、エプル、ロッキー、ベス、アーティ。そろそろゴハンの時間でしたね」 それを聞いた 犬どもは尻尾をブンブンと振ってルーポ目がけて突進をしてきた。 「!?」 オレが見た光景は、ロシアンウルフハウンドに押し倒されたルーポだった。 その犬は一番に ご主人様にありついて嬉しそうに尻尾を振っている。 「おやおや エプル、レディが端ない」 ルーポもソイツにベロンベロンと舐められて どこか嬉しそうだ。 つかソイツ「レディ」って……メス犬かよ! メス犬に押し倒されているヤツがオレを押し倒しやがって! 自分が情けなくなるわ!! 「済みませんヴォルフ、今回は愛犬に呼ばれてしまったので この続きは夜にしましょうか?」 「なんでだよッ!?」 「僕ももう少しヴォルフとスキンシップをしたかったのですが……」 そっちじゃねぇ……。 ま、一時しのぎとはいえルーポから離れたのは良かったげ。 「それではヴォルフ…、また今夜ですね……」 そう言うとルーポは起き上がり「エプル」とかいうロシアンウルフハウンドを撫でると去っていった。 「とんだ茶番だったぜ……」 ま、その茶番のせいで助かったわけだが! 昼下がり。 唐突だが、オレは屋敷の宝部屋を巡っている。 金目のものを漁るとかそういう意味ではないが、開けたことのない部屋と見たことのない宝の数々は不思議と好奇心がわく。 オレはフと奥にある深緑色の二枚扉の部屋が気になった。 一際目立つその扉にはどんな財宝が隠されているのだろうか…? オレは震えながらもその扉に手をかけた。 「人形部屋…?」 童謡に出てくるフランス人形か? それともアメリカ生まれのセルロイドってヤツか? どちらにせよ おとぎ話には必ずは出てきそうな西洋人形の数々がコチラを見ているかのように見える。 「身震いがするぜ……。これもルーポかジェスターの悪い趣味か…?」 デカい部屋の中央にはこれまたデカい天蓋つきのベッドが置いてあった。 そこに近づき 天蓋のカーテンを開けてみると、そこの部屋の主かのようなデカい西洋人形が置いてあった。 大きさは1mくらいあるぞ? その人形は腹部に指を絡めていて仰向けに横たわっている。 眠っている それはまるで本物の幼女のように…。 それにしても西洋の寝巻きだか下着だか知らねぇが、随分と露出度の高い格好だ。 その人形は金髪であるが波を打つ髪はジェスターのようで、顔立ちはどことなくルーポに似ている気がする。 寝ているだけのルーポも見た目だけは そうだが、この人形も吸い込まれそうになるほど綺麗だ。 「よく出来ているな…」 オレはいつの間にかその人形の頬に触れていた。 陶器かセルロイドにしては随分と柔らかいな…。 すると、その人形はカッと目を見開き突然起き上がってオレの鼻に頭突きをかましてきた。 「イッテェ!!」 「うむ、ずいぶんとデカい虫を なきものにしてしまったようだ……あわれだな」 オレは痛みとともに、その綺麗さと裏腹に口の悪い幼女に呆気を取られた。 クソッ!花売りのメスガキといいルーポといい、この国のガキはクソばっかか!? 「失礼致します、そろそろお目覚めの時間ですのでハーブティーをお持ちし…」 フとアーデルハイトが部屋に入って来た瞬間、手に持っていたハーブティーを落として固まった。 よくよく考えてみたら今のオレは、ベッドの上で横になっている謎の下着姿の幼女の上に跨っていることに気がついた。
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