1話、日のいづる国のオオカミさん

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1話、日のいづる国のオオカミさん

1話、日のいづる国のオオカミさん 20世紀初頭、ヨーロッパには とある小国があった。 その名は"フリーゲン国" そこの住人の大半は、差別や迫害の対象となる混血や奇病を持った者たちが多く暮らしている。 オレの名は"月嶺 一狼(ツキミネ イチロウ)"……いやここでは身の安全を守るために"ヴォルフ"と名乗るとするか。 そんなフツーの日本人がわざわざここに来た理由か? その理由は2つある。 まず1つ目に、オレは元々"この国を知りたい"という好奇心があった。 たった2000k㎡しかない国だが、ここには色んな国籍の者が自らの困難に苦しみながらも立ち向かい暮らしている。 それがとても興味深い。 2つ目は自立のためだ。 オレは日本では極道の若頭だ、行く先々に いつも取り巻きが付いていて 「若!」だの「兄貴!」だのウザったくてしょうがねぇ。 挙句の果てに母は一人息子のオレを猫可愛がりしすぎて、1人では行く場所が限られて とんだ甘ちゃんに育っちまった。 だがオレの年齢は20歳、ハタチだ。 もう心も体も大人そのものだ いつまでも乳臭いガキじゃねぇ。 見ず知らずの異国の地に行くのにはもちろん恐怖は感じる、それでも進まなくっちゃならねぇ。 今のオレはヨーロッパでは珍しい着流しの姿で、色眼鏡で見る通行人を尻目にしながらトボトボと歩いて行った。 すると、1人の少女が一輪の花を俺に差し出した。 「お兄さん…、お花…買いませんか…?」 少女は怯えながらも俺の反応を伺っており、オレは少女のをジロジロと見回した。 少女の身なりは見すぼらしく、服はツギハギだらけで靴もボロボロだ、しかも片っぽしか履いていない。 オレは少女をストリートチルドレンの1人と思い、憐れみを込めてチップを渡した。 「…ほらよ」 「あ、ありがとうございます!」 すると次の瞬間、少女は俺の財布を奪い そのままオレから遠ざかっていた、それはすなわち窃盗だ。 「ま、待ちやがれ!」 それに気づいたオレはすぐさま少女を追いかけた。 だがオレの下駄では到底追いつけることもなく、少女はどんどん離れて行く。 「クソッ!」 走ることに優れていない下駄はカラカラと鳴り、足は痛くてたまらない、それでも走り続けた。 しばらく走り続けると、少女が建物内に入るところを目撃した。 オレは下駄の音が鳴らないように忍び足で こっそりと少女の後をつける。 少女は建物内の一室へ入り、俺がその後を追う。 一室に入った次の瞬間、口元に湿った布が覆い被さろうとした。 (な、なんだ!?) オレは咄嗟にそれをかわして相手のみぞおちに肘鉄をお見舞いしてやった。 「弱ぇ…」 豆腐のような感触を肘に残しながら、呆気なく相手はその場に崩れ落ちた。 それにしても薬品の臭いがする…布に付着しているのは恐らく気絶させるためのものだろう。 「ケッ…」 オレは床に唾を吐き捨てその場を後しようとした。 その刹那、また背後から殺気を感じた。 しかも複数だ。 ったく、どうやらバカンスなんぞ楽しむ余裕なんてねぇようだ。 「弱ぇヤツほど群れたがるのは万国共通だな!」 殴る、蹴る、踏む、とにかく暴力を振るう。 複数の暴漢はみな再起不能だ。 クソっ!頭が痛ぇ、なんでオレは異国に来てまで血なまぐさい戦いをしなきゃいけねぇんだ? オレは息を切らせて顔についた血と汗を拭った。 次の瞬間、何かが俺に覆いかぶさった。 その正体はドーベルマンとロシアンウルフハウンド(現在のボルゾイ)だった。 大型犬が?しかも2体も…?。 警察犬にしては毛並みが整って仄かに高級そうな匂いがする、それが逆に気味が悪い。 さっきは人を殴っても何とも思わないが、さすがに犬どもを殴るのは心が痛む。 だがこのままでいても埒が明かねぇ、オレはこの犬を振り払おうとした。 そのときだった。 「Stop!」 その声を聞くと犬どもは俺の拘束を解いた。 声の主は吸い込まれそうな赤い目と長い白い髪をした中性的な顔の少年だった。
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