第48話

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第48話

翌日、出勤してきた私が見たのは、最近ではすっかり枯れ草のようになっていた横田さんの、久しぶりにさっぱりとした姿だった。 もしかしたら髪を切ってきたのかもしれないけど、この人の髪型は少なくとも私が見るようになってから、判で押したように変わらないから、正直なところそう見えた原因はよく分からない。 芹奈さんも、いつものバッチリ出来る女のお仕事ファッションに、さらに磨きがかかっている感じだ。 化粧品がバージョンアップしているのかもしれない。 二人ともにこにこして上機嫌で、その間に挟まれた愛菜は、この二人以上に上機嫌だった。 「愛菜さんの歓迎会をあの三人だけで、今日のお昼にランチ会でするそうですよ」 市山くんが教えてくれた。 あぁ、だから今日は、ちょっといつもと違うんだ。 女嫌いを公言してはばからない横田さんが、全くもって紳士的に、愛菜と芹奈さんに接している。 「同じ部署に配属されるって、やっぱりマッチングの魔法なんだね」 彼が元気にしているのなら、それは正解なのだ。 三人で並ぶ背中が生き生きとして見えるのは、それで正解だからなんだ。 「気にすることないよ!」 さくらは言った。 「うちらはうちらで、今日はみんなで一緒にご飯食べよう!」 そう言われれば、最近はみんなで集まってお昼を食べてなかったな。 愛菜が来る前は、私はこの場所で誰かと一緒に食べていたのに。 それで時々は、ここのみんなで一緒に食べることもあったのに。 私がうなずくと、みんながほっとした顔になった。 お昼の時間がきて、三人がオフィスを出て行く。 完全に扉が閉まったのを確認してから、私たちもランチの準備に入った。 市山くんが熱いお茶をいれてくれて、七海ちゃんがソファとテーブルの位置を移動させた。 さくらは休憩スペースの回りを片付けている。 私は部署で用意されている、専用のランチョンマットを広げた。 社食に注文したピクニックランチが、アシスタントロボによって運ばれてくる。 その時、ロボットの後ろから現れたのは、他でもない長島少年だった。 「なんだか楽しそうだったので、僕もご一緒してもよろしいですか?」 七海ちゃんは目を輝かせて喜んだ。 市山くんは彼のためのお茶を用意して、少年は私の隣に、さくらと挟まれて座った。 「わぁ、こうやって食べるお昼も、たまにはいいものですね」 テーブルに並んだパーティーメニュー。 彼は自分で取り皿に唐揚げを一つつまむと、それを口に入れた。 「おいしい」 「僕、次のファンクラブサイトのトップ記事、ヘッドラインの文字が予想出来ました」 「なんですか?」 市山くんの言葉に、彼は首をかしげる。 「唐揚げが好き!」 「決まりですね」 七海ちゃんが、スマホを高速タップしている。 「ちょっと、やめなさいよ」 さくらが注意すると、少年は笑った。 「唐揚げは、好きですよ」 七海ちゃんと市山くんは、長島少年に興味津々の質問攻めで、彼はそれににこやかに対応しているけれども、聞いているさくらの方はドキドキで、彼を必死にフォローしている。 『そんなこと聞くもんじゃないでしょ』とか言って。 私はそんなやりとりを隣で聞いているだけで楽しくて、おかげでいつもはあまり好きではない卵のサンドウィッチが、とてもおいしく感じる。 「ところで明穂さんは、最近少し元気がないようですが」 「えぇ、さくらにも言われちゃって。でも昨日はごちそうになりました。ね、さくら」 私がさくらをのぞき込むと、さくらはちょっと恥ずかしげに顔を赤らめて「そうね」と小さく答えた。 「それならよかったです。いつも元気なあなたが、すこし落ち込んでいるようだと聞いたので」 「とんでもないです! 私なら大丈夫ですよ、ホントに」 慌てて否定すると、彼は心配したようにそっと笑った。 「あなたが、無事で健やかにいて下さることが、僕たちにとっての支えになります。あなたがここに来たこと、それをご自分で選択なさったことを、もっと誇りに思っていて下さい」 「はい」 どうして彼みたいな人からそんな風な言葉をかけられるのか、私には相変わらず意味不明だけど、誰かから大切に思われていると感じられるのは、ありがたいことだった。 「そうするように、努めます」 彼はまた少し笑った。
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