鏡の向こう

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 待ち合わせをしていた友達から遅刻するという連絡が入り、時間潰しのために近くのカフェに入ってみた。  びっくりするくらい店内が広く、入り口でしばらく立ち止まってしまったが、すぐに、本来壁である部分が鏡張りになっていて、店が広く見えるようになっているだけだと気づいた。  適当な席に座り、スマホを弄る。その最中、違和感に気づいた。  店には私以外、二、三人のお客しかいないのに、鏡に映った風景の中は、ほぼ満席の人影が映っているのだ。  店内を確認してもこんな人数のお客はいない。だったら鏡には何が映っているのか。  おそるおそる自分の座っている席に目を向けると、そこには、私ではない誰かが座っていた。  間違いなく、鏡の中のその席は、今私が座っている席だ。でも映っているのは私じゃない。  だとしたらいったい誰が…。  人たらす戸惑う私の視線の先で、うつむいて座っているその席の人が顔を上げガラス  会計は先にすませるタイプの店だったので、席を立ち、鏡面を決して見ないよう店外へ向かう。  決して広い店ではないのに、出入り口までの距離はずいぶん長く感じられた。でももう出口は目の前だ。  自動ではない扉の取っ手を掴み、安堵の息を吐く。その時私の目に、ガラス扉に映り込んだ店内の様子が見えた。  鏡の向こうの座席に座ったその人がニタリと笑う。  ああ、ダメだ。もう逃げられない。  総てを諦めてそう思った私の背後に、誰かの足音が近づいた。 鏡の向こう…完
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