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朝から夕方までは、キッチンで冷凍食品を電子レンジで温めてから、お皿に飾りつけをする。バイトさんがすくない日は、たまに、出前にも赴く。
夕方からは、電車に乗り、夜は調理師専門学校に通う日々が続く。深里にスマホで遅くなるとSNSでメッセージを送信しておいた。既読が出た。
どうも、男二人組が僕を尾行しているようだ。試しに、夜の11時過ぎに、学校近くの本屋さんに立ち寄った。
男たちもあとから店内に入ってくる。本棚に隠れた僕をきょろきょろ探していた。僕がこっそりジム通いでもしているのかと、深里が探偵でも雇ったのだろう。
人の多い通路で雑誌を試し読みしていた。通路の両方にスーツ姿の男性が立つ。近くで顔を見れば、店の隣にある警察署の刑事さんだ。僕は雑誌を元の棚に戻してから、人の間を縫うように歩く。
「こんばんは」
「こんばんは、ちょっと署まで任意同行をお願いします」
「え?」
学校近くの交番で覆面パトカーに乗る。後部座席に座り、刑事さんに事情を尋ねるが、詳しいことは署で話すそうだ。家に電車でなく、車で送ってもらえたと、喜んでいられる状況ではない。
たまにカツ丼などを出前で運ぶ、刑事課の部屋に入る。衝立で仕切られた場所には、応接セットがあった。僕が冷静でいられたのは、刑事さんがとても丁重だったからだ。対面に座る刑事さんの一人が、トンとテーブルの上にガラス瓶を置いた。店に飾ってあるのと同じだ。
満たされた液体に、僕の不安げな顔が映っていた。
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