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僕が車を運転して、店舗兼自宅に帰った。一人だけの表彰式で、お店は臨時休業だ。事前に授賞式に日程が伝えられ、早めにお客様には臨時休業をお伝えしたが、間違えてきた方もいるだろう。申し訳ない。
満面の笑みの深里をハグする。
「あなた、もう一つ良かったことあるの」
深里が、ポケットに手を滑らせ、スマホを出す。星の数で飲食店を評価するグルメサイトで、僕らの店の星が5つになっていた。
「あなたが銅メダル取ったから、県のアマチュアボクシング大会主催者団体や、後援団体の方が、お店に何度も来店してくれたからだね」
深里が自宅のキッチンに立つ。電子レンジがチンと小気味良い音を響かせる。
「はい、オムライス」
お皿に盛り付けられたオムライスが、僕の眼前にある。テーブルに二つ置かれる。冷凍食品だろう。深里がケチャップで星の形を、黄色い卵焼きの上に描いてくれた。
スプーンで一口に含んだ。
ふわりとしたかすかな甘みを含んだ玉子の味とチキンライスが、舌の上で絶妙なハーモニーを奏でている。深里も笑みを濃くしながら、オムライスを口に運んだ。
「あなた、大事なのは、冷凍食品か手作りかじゃなくて、誰と食べるかじゃない?」
「そうだね」
***
その後、客席数に比べて、あまりにレビューが多すぎるので、グルメサイトの運営会社から、不正疑惑を持たれメールで問い合わせがあった。
県のアマチュアボクシング大会で3位になり、僕が注目されたことを運営会社にメールでお伝えした。
冷凍食品だろうが、手作りだろうと、おいしい食事は、おいしいのだ。
僕はグルメサイトで星が増やしたいと、ボクシング大会の関係者さんに話しただけだ。レビューをするよう、要求などしていない。
グルメサイトの評価は適切なのだ。(完)
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