喰ってやる

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大事な人々の中で私になりすましたそいつは、ドブ臭い匂いをあちらこちらに撒き散らし、ケタケタと気持ちの悪い笑い声を響かせる。 喰われた私は、そいつの中で臭い! 苦しい! と身をよじり、そいつは違う! 私じゃない! と泣き叫ぶが、そいつの腹の中の私の声などは誰の耳にも届かない。 私の声はそいつの腹の中で響き渡り私の鼓膜を傷つけるだけ。 喰ってしまってるんだよ。 喰ってしまった。 だから私はもうお前になったんだよ。 そいつの声を聞いて 私はもがくのをやめた。 泣き叫ぶのをやめた。 ただそいつの笑い声だけを静かに聞き、そいつのドブ臭い匂いを嗅いでいた。 いつの間にかこの笑い声が懐かしく この臭いが愛おしく感じ、不快感が消えていく。 そいつの言葉を思い出す。 私はお前になったんだよ。 そいつはどこからやってきた? そいつはどこからやってきた? 私の中から這いずり出てきた。 そいつは私になったんじゃなく………。 私はそいつだ。 喰ってやるよ。 喰ってやる。 ドブ臭い匂いごと、 黒光りした液体ごと。 私がそいつを喰ってやる。
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