【Mestamente】

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【Mestamente】

弟は自分と違い、恵まれていない。同じ人間なのに、片割れだと言うだけなのに。何故こうも差が生じてしまったのか。 天秤にかける程の差は無かった筈だ。けれど、天秤は圧倒的な傾きを見せ、自分を上にした。 親による勝者と敗者の扱いは、まるで天と地の如し。 幼きながらに、その違和感に気付き、理解しようとする。 そして、それにより生じた溝を埋めようと躍起になる。 例え、弟がそれを全く望んでいなかったとしても。 「律~……、いるかな?」 親の目を掻い潜り、覗いた弟の部屋。だけど、そこに律の姿は無かった。寂しい。話がしたかったのに。 叩かれたっていい。噛みつかれたっていい。蹴られたって、罵られたってーー弟の中に自分が生きているなら、それだけでいい。 本当は好きになってもらいたい。これ以上、嫌われたくない。 だから、拒絶は知らんぷり。こうなった原因を突き詰めては、全てが崩壊してしまうから、見ないふり。 その代わりと言っては何だが、優しくしよう。いっぱい、いっぱい求めよう。親の分まで、愛そう。 いつかきっと、自分の想いが理解してもらえるように。 また仲良く、鬼ごっこが出来るように。 「あ……」 ふと覗いた窓の先、そこには一人で無邪気に笑う律がいた。 木登りをしながら、小鳥と戯れている。 あんな笑顔は見たことないし、自分にはない。出来ない。 『ボール遊び? 駄目よ。突き指したらどうするの!』 『幼稚な遊びに体力を費やす位なら、訓練に励め。無駄な時間を刻むな』 『奏、客人が来たなら、何があってもしっかりと笑いなさい。それが未来の貴方の為になるわ。人見知りなんて、絶対しちゃ駄目よ』 『どんな状況においても、笑みを絶やすな。ただ笑うのではない。口角を上げ、余裕ある素振りをするだけでいい。 そうすれば、相手に如何なる思惑があっても、隙を窺われる事はない』 ふと過った親の忠言に感応して、鏡台の方へと視線をやる。 鏡に向かって、いつものように笑ってみせる。 だけど、弟のように笑えないのは何故? 同じ顔なのに。同じ人間、なのに。 *************
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