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【Risolute】
『犠牲を払ってでも、この運命に抗おう。それが、大事な者を守る術となる。覆して、覆し続けて、最後には幸福を手にしてやる』
『運命に抗うなんて、滑稽以外の何者でもない。自分には何もない。この運命は、決して覆せない。
だから不幸を受け入れるんだ。どんなに酷でも、受け入れ続ければ、最後はきっと楽になれるから』
同じ人間でも、決定的な違いは確かに存在した。
奏と律の相違は、物心がつくにつれ浮き彫りとなって行った。
柾と鼓は、それを決して見逃さなかったのだ。
例えば、かけっこ。
奏は負けず嫌いだった。知り合いの子供と競わせ、負けたら、勝つ為の努力を決して惜しまなかった。
そうして再び遊ぶ頃には、必ずと言っていい程一等賞を取る。年の差、体格差なんてものは気にも留めず、正々堂々と勝負していた。
対して律は、一度負けたら、泣いて悔しがる割にはすぐ諦めた。次の機会があっても、負けるからと違う遊びに走った。
これは勝てないと肌で感じた相手には、近寄りもしなかった。
そればかりか、負けた理由を自責する事すら一切せず、敗北者に落ち行く自分を恥じなかった。
どんな遊びでも、習い事でも、奏と律はそれが軸となり差が開いていた。
柾は次第に、律が自分の血を引いた息子とは思えなくなった。
どうしても認めることが出来なかった。
“鬼将軍と謳われた自分の息子が、まさかこんな負け戦や敗北を良しとする男だとは……情けなさの余り、反吐が出そうだ”と。
その蟠りは苛立ちから、やがて拒絶と変貌を遂げ、最終的には無関心へとなり果てた。鼓もまた、そんな律を同じように嫌悪した。奏は出来た子なのに、貴方は何でそうなのと毎日のように責め立てた。
奏の才能を穢されたくない。律に感化されては困る。
故に、“害虫には触れさせたくない。”
二人の想いは、これ以上ない程に合致した。
そうして、律の存在を抹消して行く。ふたつ、奇跡が同時に起きるなんて有り得ない。奇跡の子は奏だけなのだ、と。
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