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色づく景色
ボクは母を失い生きることに絶望していた。そんなある日、お父様はボクの為にミートパイを作ってくれた母のとは違い正直味は散々だったがボクは「美味しい・・・」と言って涙ぐみながら食べた。ボクの凍りついた心がゆっくりと暖まるのを感じた。守はそんなボクを見て「無理しなくていいぞ。不味いものは不味いって言っていいんだからな。」と心配してくれた。「確かにお父様は料理が下手なようだけど、それでもこのミートパイは美味しいです・・・。」だって母以外にボクの為にごはんを作ってくれたのはお父様が初めてだったんだもの。この日からボクは人を信じることを覚えた。
それから数日後、ボクは執事の春日と共にイギリスへ旅立った。そこで出会ったのが彼方と和歌菜だった。
彼方と和歌菜はボクを見て近寄って来た。「見かけない子だね。もしかして旅行客?どこの国の人?」とのんびりした英語で彼方が聞く。ボクも英語で返す「ボクは天宮零、今日、日本からロンドンに引っ越して来ました。あなた達のお名前は?」また、英語で今度はハキハキと和歌菜が話す「初めまして、私は春風和歌菜で、こっちのふわふわした方が弟の彼方よ、レイ。」それを見ていた春日が「まさかロンドンで日本人の子供に会うとは驚きですね。」と日本語で言った。「春日。彼らはイギリス人だと思いますよ。」ボクの言葉に春日は驚きなぜそう思うのか聞いて来た。「謎解きのカケラは言語です。」彼方も和歌菜も日本人なら日本語を多少は話せるはずでボクの質問に英語で答えたのは日本語が分からないからだと判断した。恐らく父親が日本人で彼の仕事の都合で彼方と和歌菜はイギリスで産まれ育ったのだろう。
ボクはイギリスで初めて遊びを覚えた。和歌菜や彼方と共にボールを蹴って走ったり色んな話をして過ごした。走ることの楽しさを初めて実感したのはこの時だった。勿論、遊びばかりではなく春日の熱心な教育も受けた。春日はボクに色んな国の言葉や護身術等様々なことを叩き込んで「レイお嬢様は本当に教えがいがあります。まだまだ学ぶことはありますよ。人生は全てが教育ですから。」と張り切っていた。
「春日はそんなに教育が好きならなぜ教師にならなかったのですか?」ボクの疑問に春日は「私は教える事や学ぶ事は好きですが大勢の人に囲まれることが苦手なのです。」と微笑んだ。
あっという間に月日は流れ、ボクは高校生になった。そして、日本に帰国することとなる。始めは不安でいっぱいだったが日本の高校でも友達ができ映画を観に行ったりショッピングしたりカラオケに行ったり楽しく過ごしてきた。中学生の頃から本格的に始めた探偵業も続け、イギリスと日本を行き来しながら青春を送っていた。
そして、あの事件が起こる。その時イギリスにいたボクのもとに警視庁の森警部から電話が来た。その電話はボクの日本の高校や警視庁にマスコミが押し寄せ大変なことになっているので直ちに帰国するようにとのことだった。警部も事件の処理に追われ焦っていた。飛行機の中でボクはマスコミの質問を全て無言で通して帰国した。空港にもマスコミがたむろしていたが警察が食い止めてくれてなんとか日本の家に帰った。
ボクはとにかく疲れきり春日はイギリスに残して来て良かったと思った。事件のせいで警視総監のお父様も仕事に追われ、守はボクを心配し気にせず休むように言ってくれたがボクの心は病んでいた。
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