キミの文字《こころ》を見せて

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 早速、その文通相手のことを探ろうと行動に移す。正直なところ、名前だけ文芸部に所属させてもらえばそれでいい。  私はその旨を手紙にそれとなく残した。無論、私は《MY》について詮索はしないし、一度も姿を見せなくとも構わない、とも加えて。 …本当のことを言えば、この人物には興味がある。どんな人柄なのか、それは何となく察することができた。  少なくとも、去年からこの学校にいる人物で、見たことのない字面だから、同じクラスなど、私と接点のある、持てる立ち位置にいる人物ではない。  聡い人であるのはまず間違いない。指先から伝わる、その字体からわかるのは、真面目で、負けず嫌い。丁寧な物腰だがその実慇懃無礼。言いたいことはズバズバ連ねる。 …同時に、とても察しがよい人物だ。手紙の書き方をわざわざ崩してきたのは、その証左だろう。  そんな、勝手な期待と考察を交えた文の返答は、いつになく早く届けられた。私の頼みはにべもなく断られた。 『ワタシはその望みに答えることはできない。心情的にではなく、物理的に』 …物理的に、とまで書かれてしまえば、私にはどうすることもできない。  一方で、その理由もまた気掛かりになり尋ねてみるが、その答えには応じられない、と返されるに終わる。 《MY》への足跡はまるで辿れない。此方の心境を覗き観ているかのように汲み取るから、私の足跡を踏んで歩いているようにも思えてくる。 …こうして私に断りを入れたのは、安易な手助けに依存させない為、という心遣いであると、その部分だけ違う書き方から窺える。  しかし、出鼻を挫かれたのは事実だ。頼るのではなく、自力で集めなければ。  そう決意を新たにする私の肩を叩く者がいる。感触でわかる。これは私の数少ない親しい間柄の──、 『紫、何か用?』  そう訊ねながら振り返れば、想像していた通りの顔が出迎える。  明るい色合いのカーディガンがよく似合う、活発そうな少女が、今時珍しいロケットペンシルをくるくると回しながら立っていた。 『ゴアイサツね。親友に対して雑な応対じゃない?』 『人が考えている時に肩バンバン叩くのはどうかと思う』 …と、眉をひそめている私の机から、紫はいつの間にか手紙を掠め取っていた。 『文通? ドラマみたいなことしてるね』 『放っておけ』 ──と、今は置いておいて、他に大事なことがあるのだった。 『…頼みがあるんだけど』 『頼みなら喜んで』 『名前だけ貸してくれる人を探しているんだけど。一、二年生で』 『どういうこと?』 『部員が足りなくて。この調子だと来年にはお取り潰しが言い渡される』 『そっか。大変なんだね』  紫はもみ上げを指でいじりながら、思い当たる顔を幾つか脳内でピックアップしている。指の動きが止まると、その結果が表れる。 『…バイト先の子、うちの下級生なの。聞いてみるね』 『その子も苦学生?』 『違うよ。普通に校則違反。あたしみたいに特別な理由がないコ』 ──よし、聞かなかったことにしつつ、そっちの件もお願いする事を頭を下げて頼むと、紫は親指をたてて安請け合いする。  話がついたところで、時間を見るや慌てて退室する紫。大方バイトの時間なのだろう。 …考えてみれば、《MY》がイニシャルだった場合、あの森紫も候補に挙がる。  けれど、それは違うと断定できる。幼なじみの字体は何度も見ている。間違えるほど馬鹿でもない。  何より、私の知る《MY》のキャラに合わない。苦労しているけれど、基本は明るくムードメーカーの彼女は、そういう手紙とか煩雑なことは苦手と来ている。  おまけに嘘も下手くそだ。さっきの手紙を見て、なんの反応も示さなかったことからも明らかだ。故に、候補から外れる。  ならば、誰なのだろうか。そもそも、見知った人物、というのが思い込みなのかもしれない。  イニシャルという括りならば、あのニコチン臭い前田も候補に挙がってしまう。論文ならいざ知らず、あの人物が筆まめな人とは少し考えにくい。
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