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学校の掲示板には、今日も雑多な紙切れで埋め尽くされている。
比較的人が多く通る廊下は兎も角、四階建ての校舎には当然人気のない場所も生まれる。その場所の掲示板は、大抵一月以上前の広告が放置されている。
そして、その意味のない紙切れたちを捲ると、宛名のない茶封筒が画鋲で留められていることがわかる。
慣れた手つきでそれを取ると、周囲を確認しつつ、胸の高鳴りを抑えながら中身を見る。
ルーズリーフの一枚を使って書かれていたのは、定規で書いたらしい直角が目立つ、固いというイメージが先立つ字だった。
一方で、その文の内容はとても暖かで、読み進める度に頬がほころぶ、心地のよいものだった。
私はそれを胸に刻んでおくと、何事もなかったかのようにその場を後にする。利き手が疼いて仕方ない。一秒でも早く返事を書きたいのだ。
…この手紙に差出人の名前はない。《MY》という文字だけがその代わりを担っている。何かのイニシャルなのか、別の読み方があるのか、それは不明だ。
最も、それは私がこれから書くものも同様だ。私は自宅に帰ると、一目散に机に向かい、胸の内を片っ端から並べていく。
そして、差出人の当たる場所には、自身の名前の頭文字の《Y》を書き、返事は完成する。明日、朝一番にこれを同じ場所に残す。
…この人物を、私は知らない。勿論、彼方側も同じだろう。名前はおろか、クラスも年齢も、顔や性別だって知らない。
この学校の関係者で、ある時期から指の怪我がとかで、手紙の書き方が変わった。それ以外は、互いの趣味趣向がせいぜいだ。
顔も声も、何もかも知らない、下手なネットワークよりも薄い繋がりだ。どんなに長くとも、私が卒業する一年後にはプツリと途絶えるだろう、細い糸のような関係。
…けれど。このささやかなやり取りは、私の胸の内を暖かな熱で満たす。それが嬉しいから、私はこれをくれる人物にも知ってほしいのだ。
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