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3.
本格的な冬がやって来た。朝方は気温が一桁台を記録するようになり、登校時にマフラーやコートを着ている人も見かけるようになった。秋桜は秋生まれで寒さに強いこともあって、毎年マフラー一つで冬を越す。現に秋桜はまだ防寒具を身に付けていない。霜が降りる頃までは必要ないだろうと踏んでいる。
それにここ一ヶ月、やたらと走る機会が増えた。特に登校時、公園を突っ切って小道に入り右へ左へとにかく走る。走ると決めたら、自分で決めた通学路なんて最初から無視だ。彼らを撒くためなら多少の徒労は惜しむまい。
とは言え先方は、朝に限らずあらゆる場面で暗黙のルールに従ってくれている感がある。秋桜を見失ったら先回りして学校の前で待っているといったルール違反はしないのだ。しかも逃げ切ったり、ガン無視に成功したり、言い負かしたり、秋桜が何らかの形で勝った時は最低でも半日現れない。これは先方が大見得切って勝手に取り付けたペナルティだが、墓穴を掘っても忠実に守ってくれている。
秋桜としてはこの状況を楽しんでいるわけでは決してないのだが、悪いかというと断言するには躊躇いがある。最近は特にそうだ。最初の一週間は即答で最悪と答えていただろうけど。
今朝は彼らが現れず、実に穏やかな登校だった。しかし油断は出来ない。このパターンだと、教室で待っていることが一番多く、校舎を徘徊していたり、授業中に気が向いた時に顔を見せたりすることも考えられる。
パターンごとの対処行動を確認しながら教室のドアを開けた。
どうやら待ち伏せのパターンでもないらしく、ここにも彼らはいなかった。入口につっ立っていても不自然なので、秋桜は足を止めずに自分の席に歩いていく。カバンを机の上に置いてから改めて教室を見回した。窓の外もチェックする。
「あき? どうしたの?」
「いや……」
授業中もずっと気を張っていたのだが、〝桜の精〟と名乗る二人組――桜花と守桜はいつまでも現れなかった。
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