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 今宵は新月だった。月のない夜は、闇が一層深い。宇宙の姿に限りなく近い天球を見られる夜でもある。尤も都会では街が明るすぎて、僅かな星光しか地上に届かないのだが。  二十四時間眠らない街は遥か下方にある。雲はないが、上空の様子が人間に知られることはない。地上の人間はもちろん、飛行機に搭乗している人間にも目撃されることはない。もとより彼らの存在を知覚できるのは、それを許された者のみだ。  夜の闇に紛れて現れた異形の集団が奇声を発する。幻獣の数は百近い。グリフォン、ペガサス、ワイバーンに留まらずドラゴン、ガーゴイルなど、出現する有翼獣の種類は一ヶ月前より数倍増えている。  閃光がきらめいた。場所や方向を違えて光の軌跡が幾度も描かれる。幻獣らの間を、太刀を手にした守桜(すおう)が駆け回っていた。奴等に捕まらない素早さで跳躍を繰り返し、数体ずつだが着実に倒していく。また一体、跳んだ先にいた幻獣を分断した。  幻獣の輪がどんどん小さくなる。しかし依然として正確な全体数すら把握できない。守桜(すおう)は一度集団の輪から抜けた。空を斬り、太刀を握り直す。額の汗が頬を伝った。 「これで、九百っ……!」
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