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ころころと転がる石が、汚れた靴に当たって止まった。
誰か、そこにいたのだ。アレクはゆっくりと視線を上げた。
背の低い、ずんぐりとした男がにやにやしながらアレクを見ていた。その薄汚い格好にアレクは顔を顰め、踵を返そうとした。
「待ちなよ、魔法使いの兄ちゃん」
ひどくしゃがれた声がアレクを立ち止まらせた。更に眉を寄せるアレクに、だがまったく気にする様子もなく、男が近付いてくる。
「星。必要なんじゃないかい?」
意外な言葉に、アレクはつい目を見張った。
星が、必要……?
ああ、もちろんだとも!
「俺は見てのとおり貧乏でね。魔法でカネを出してくれよ。そしたら星が生まれるからさ」
「あ……でも……」
言い淀み、俯く。
「お金は魔法では出せないんだよ」
「じゃあ、カネになるものだったらなんだっていい。銀の食器、絹のドレス……」
それらをカネに替えるつもりか。
これは、正当な取引とは言えない。魔法は、人々の心を豊かにすることが本来の目的なのだ。
ちらりとアレクの脳裏をリーヌスの姿がよぎった。
リーヌスのように黄金の羽を持ってさえいれば。最高位の魔法使いだと評判になり、次々に依頼が入る。リーヌスだってあっという間に黄金の羽を手に入れたのだ、何か狡い事をしたに違いない。
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