事件は〇ッパイとともに 3

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事件は〇ッパイとともに 3

翌朝。大輔と晃司は昨夜の出来事を同僚の桂奈と一太に伝えた。 「ええ~? それって、うちの案件じゃなくない?」 すぐに抗議の声を上げたのは一太だ。 「刑事課が事件性なし、て判断したんでしょ? 俺らが変に突いたら、刑事課もいい顔しないんじゃない?」 「でも……ちょっと気になるよね」 大輔たちの話を難しい顔で聞いていた桂奈が重い口を開く。 「あのチャイエス店は、下の不動産屋の物件なわけでしょ。その不動産屋のオーナーが帰化した中国人、てのはありそうだけど……国の親戚や友人とは一切縁がなかったのに、急に中国人に貸した。そしたらそれからすぐに、中国人の大家がいなくなったって……きな臭くない? 大輔くん、行方不明の不動産屋社長については調べてるの?」 「えっと……こっちではそこまで詳しく調べてなかったんですけど、捜索願を受けた刑事課……颯太郎さんの話だと、社長の孟徳さんは日本に来てからすぐに結花さんのお母さんと結婚してます。それから妻の実家の不動産屋経営を手伝って、とっても真面目に働いていたそうです。もちろん、犯罪歴も逮捕歴もありません。仕事柄、駐車違反が何回か、てとこです」 「ふ~ん、日本では特に裏はなさそうなんだ。失踪する前も店の経営は順調で、トラブルも特になかった。それなら……トラブルは国にいた時のものかもね」 「でも……もう来日して何十年ですよね? 娘さんが大学生なんだから。そんな昔のこと関係あるかな。……店のトラブルか、もしくは女性が出来た、とかかもしれませんよ?」 これ以上仕事を増やしたくない一太は、孟徳が事件に巻き込まれたとは考えたくないのだ。 「大輔くん、あたしもちょっと調べていい? 中国マフィア……玄武が気になるし、調べるアテもあるから」 「え? それは俺が許可出すようなことじゃないですけど……」 なぜ桂奈がそこまで? と不思議に思っていると、そこまで黙っていた晃司が、おい、と低い声で桂奈を呼んだ。 「玄武……の名前に桂奈が反応するのはわかるけど、あんまり首を突っ込みすぎるなよ? 筆記試験の結果、どうなるかわかんねぇぞ」 「心配してくれるのは嬉しいですけど……小野寺さんだって、もうかなり首突っ込んじゃってるじゃないですか。 颯太郎くんに聞きましたよ、失踪した社長の娘さん、かなり可愛い、しかも巨乳だって。可愛い女の子にいいとこ見せようと張りきりすぎない方がいいですよ?」 「バーカ、そんなんじゃねぇよ。女子大生だぞ? あっちからしたら俺なんかただのオッサンだよ」 「あらぁ? なにその発言。やっぱり小野寺さんの方は気があるみたいじゃないですか」 「だからぁ、そんなわけねぇだろ! 俺は……お前の心配をしてんだよ。桂奈は大人しく筆記試験の結果を待ってろっつうの」 「ご忠告ありがとうございます。……でも、別にあたし、昇進したいだけで警官続けてませんから。……一太くん、この書類出しといて。今日の午後までのやつ」 なぜか桂奈は怒った様子で立ち上がり、斜め向かいの席の一太に書類の束を突きつけた。 「えっ、なんで俺なんですか?!」 「だって一太くんが一番暇でしょ? あたしも、大輔くんたちも社長の失踪を調べるから。なんにもしないなら、事務仕事でもしててよ」 桂奈はキビキビした女性だが、横暴な振る舞いを後輩に取ることは少ない。だからこんな桂奈は初めて見た。大輔も一太も、なにやら荒ぶる先輩女性警官になにも言えなかった。 桂奈は鞄を手にし席を立つと、急いだように生安課のフロアを出ていった。後輩二人はあ然と先輩の後ろ姿を見送った。 「……あ~あ、桂奈に火が着いちまったか」 晃司は面倒臭そうにしていたが――どこか楽しんでもいるようだった。
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