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事件は〇ッパイとともに 6
翌日。大輔が出勤すると隣の席の一太が盛大なあくびをしていた。
「……おはようございます。一太さん、寝不足ですか?」
「おはよう。……あんま寝てなくってさ」
「え? まさか、昨日、結花さんとなにか……」
同じ童貞で奥手なはずだと思っていたのに、一太にそんな大胆さがあったのかと驚くと、一太は、違うよ! と声を荒げて大輔を睨んだ。
「昨日、結花さんをアパートまで送って……すぐ近くに24時間営業のファミレスがあったから、そこで一晩待機したんだ。結花さんになにかあったらすぐ駆けつけられるように」
「え~……一太さん、本気(マジ)じゃないですか」
「は? え? そういうんじゃないよ! 実家があんな風に荒らされてたんだよ? 犯人が結花さんちにも押しかけたら大変だって心配しただけだし」
「それはそうですけど……だからって、徹夜で待機なんかします? まだ空き巣もお父さんの失踪も事件かわかんないのに。一太さんって、結花さんのこと……」
「だからぁ! 違うってば! ……可愛いな、とは思うけどさ」
「ほらぁ、やっぱり!」
大輔と一太の童貞コンビが男子中学生のようにはしゃいでいると、晃司が出勤してきて、朝から元気だな、と一太の前の自席に座った。誰かとメールでもしているのか、携帯を忙しそうに操作している。
「一太、昨日、結花んちの近くのファミレスに泊まったんだって?」
なぜそれを?! と大輔と一太が同時に晃司を振り向く。晃司は携帯の画面を見ながら微笑んで、オジサンのくせに素早く指を動かして誰かにメッセージを送っていた。
「結花が心配してんぞ。ほぼ徹夜だから、仕事に支障があるんじゃないかって。安心だったけど、申し訳ないってさ」
「……え、結花さんから聞いたんですか?」
低い声で訊き返したのは大輔だ。晃司は悪びれもせず、スマートフォンをチラッと見せた。
「今、な。結花はこれから大学だって」
(朝からなにメールでイチャイチャしてるのかなぁ?!)
大声で問い詰めたいが、一太がいるので我慢する。それに二人の関係を疑うには、晃司の態度が普通すぎた。朝から女性とメッセージのやり取りをすることは、晃司にとってはなんでもないことなのだろうか。
今までの人生で朝から連絡を取り合う女性――男性でも――いなかった大輔には判断しかねる。
「結花さんと……随分仲良くなったんですね」
嫉妬丸出しで訊いたのは一太だ。大輔は内心で一太に感謝した。
「不安なんだろ。メールするぐらいならこっちは楽なもんだし、付き合ってやるさ。……朝まで近くのファミレスにいた一太は、俺よりずっと結花を心配してんだな。格好いいことしてんじゃん」
晃司が一太をからかう。一太が結花に気があることは、晃司もとっくに気づいているのだ。
一太は晃司と女性のことで言い争っても勝ち目があるわけないと早々に諦め、ムッとしながらも黙り込んだ。大輔も晃司と結花の仲良しエピソードなど聞きたくないので、同じように黙る。
それから始業時間ギリギリになって桂奈が出勤してきて、係長の原が中心となった朝礼を終えると、それぞれ自席で仕事を始めた。しかし桂奈は、原が席を立ったのを確認すると自分も席を離れ、どこかへ行ってしまった。
そういえば桂奈は昨日から署にいないな、と考えながら仕事していると、机の上に置かれたスマートフォンが震えた。桂奈からのメッセージで、第三会議室に来てほしい、という呼び出しだった。
大輔は首を傾げた。第三会議室とは、生安課と同じ三階にある会議室だが、各部署の倉庫のような使われ方をしたり、資料整理のスペースとして使用されたりと、多目的室と化している。保安係のメンツはたまにそこで、秘密の仕事をすることがあった。
大輔はコッソリ辺りを窺った。晃司も携帯を見ている。おそらく、同じメッセージが桂奈から送られてきたのだろう。隣の一太はノートパソコンを叩いており、大輔と同じように机に置かれたスマートフォンは静かなままだった。
どうやら自分と晃司だけ呼び出されたらしい。桂奈の意図がわからないので、大輔は一太に伝わらないよう席を立った。
トイレでも行くフリをして第三会議室に向かう。晃司が大輔の様子を探っていたので、タイミングをずらして来るのだろう。
第三会議室は、荒間署三階の端にある。その扉をノックすると、中から桂奈が、はい、と返事した。
「……失礼します。桂奈さん、なにかありました?」
部屋に入って、大輔は眉を寄せた。強い香りがした。甘い、ムスクのような良い香りだが、大輔の周りに香水をつける警官はいないし、桂奈も仕事中に香水などつけてきたことがない。
匂いのもとがわからず不審に思った大輔だが、狭い部屋の中央、今日は一台の長机とパイプ椅子が何個かバラバラに置かれ、その一つに桂奈が座り、その隣に座る男に――目を奪われた。
スリーピースの見るからに高価なスーツを纏い、警官らしからぬ長めの髪を片方の耳にかけた男が、桂奈の隣の安いパイプ椅子に足を組んで座っていた。
佇まいがすでにモデルのようだが、その顔立ちは部屋に香る香りのように甘い二枚目で、組んだ足の長さから座っていても高身長とわかり、高級スーツの下の肉体は服を着ていても隠せないほど逞しい。
イケメン刑事と囃し立てられる大輔も、裸足で逃げ出したくなるぐらいだ。美しい顔面だけでなく、均整のとれた逞しい肉体も兼ね備えた本物のイケメン。男の周りだけ、メンズファッション誌の写真を切り取ったようだ。――背景に生活感が溢れすぎているが。
(……誰?)
どう見ても警察官ではない。困惑した大輔が中に入れないでいると――。
「……ゴウダさん? どうしたんですか?」
遅れてやってきた晃司が中の男を呼んだ。
「大輔、なにやってんだよ。入れよ」
晃司が大輔を無理やり中に押し込み、自分も入ると後ろ手に扉を閉めた。
ゴウダ――と呼ばれた男が晃司に向かって手を挙げる。
「お~、晃司、久しぶり。相変わらずイイ男だな」
(晃司……ぃぃ?!)
大輔は目を丸くした。晃司を名前で呼ぶ警察関係者を大輔は知らなかった。
「ゴウダさんも……相変わらず仕上がってますね。ジム、週何回通ってんですか?」
「ん~、週四は行ってるかな」
「マジっすか? もうアスリートじゃないですか、警官じゃなく」
「警官だって体が資本だろ。聞いたぞ、去年お前が撃たれた時も、筋肉で銃弾が止まって最悪の事態にはならなかったって。内臓はほとんど無傷だったんだろ? さすが俺のヒーローは違うね」
「あれは……距離があったのと、使われたのが県警(うち)の銃で威力が弱かったから助かったんですよ。運が良かっただけです」
大輔は瞬きも、呼吸までも忘れ、親しげな会話に聞き入った。晃司が撃たれた事件は、大輔にとって新たなトラウマになりかねない大事件だった。それを晃司はわかっているから、二人はあの話にあまり触れない。それなのに、晃司はこの男とあの事件を冗談交じりに笑顔で話している。
男がよほど無神経なのか、それとも晃司がそれほど男に心を開いているのか――。
「大輔くん、こちら……組対三課の合田柾司(ごうだまさし)警部補。合田さん、あれが噂の、荒間署が誇るイケメン刑事で」
「童貞刑事……通称DD。確かに……イケメンだけど随分ガキっぽい男だな。大学生でも通るんじゃないか? 頼りなさそうで、なよっちくて」
合田――と桂奈に紹介された男は、甘い笑顔でかなり失礼だった。しかし刑事部所属の警部補、と聞かされては、ぺーぺーの大輔は怒ることも言い返すこともできない。
組対三課――S県警察本部刑事部組織犯罪対策三課は、外国人の組織犯罪を担当する部署だ。外国語が堪能なエリートの多い部署と聞いているが、合田はセクシーマッチョ感が強すぎて、エリートのイメージはなかった。どちらかというと、古いタイプのホストだろうか。顔の濃い二枚目は捜査一課に一人知っているが、こちらは濃い、甘い、さらにセクシーが付け加えられ、濃厚すぎて胸やけしそうだった。
「それが意外と頼りになるんですよ。勘がよくて……とにかく持ってる。刑事には大切なことでしょ。あんまこいつを甘く見ない方がいいですよ、中々侮れない後輩です」
こき下ろされた大輔をフォローしてくれたのは晃司だ。
晃司は近くのパイプ椅子を引き寄せ、突っ立っている大輔を促し、合田と桂奈の前に並んで座った。
「で、合田さん。四課の大塚さんはともかく、三課の合田さんがうちに来るなんて……どんな用ですか? 北荒間は景成会のお陰で……ていったら語弊があるが、今のところ外国人組織の犯罪は少ないんですが」
「桂奈に頼まれたんだよ、『玄武』について知ってることを教えほしいって。で、桂奈に会うならついでに俺の可愛い晃司にも会いに行くかって、わざわざここまで出向いたわけ。……ようは、晃司に会いたかったってことだ」
合田が晃司にウィンクする。晃司は思わず、という風に噴き出したが――大輔は合田の香水の香りにむせ返りそうになった。
(……なんだなんだ、このオッサン……)
「つまり、まだ合田さんの目的は教えてくれないってことですね。で、今の時点で教えてくれることはなんですか? 俺に免じてケチケチしないで情報くださいよ」
「いいぞぉ、飯ぐらい付き合ってもらうけどな。……朝までコースで」
大輔は目はまん丸になり、口も同じく丸く開いて塞がらなくなった。晃司――恋人が、目の前でナンパされたのだ。それなのに、晃司は面白そうに笑っている。ハッキリと断ることもなく。
大輔は間抜けに呆けていたが、三人の刑事たちは真面目に情報交換を始めた。合田が、中国マフィア『玄武』について話し出す。
玄武――は、五年ほど前に日本で活動を始め、大きな組織ではないが、窃盗の技術が高く、県内や近隣の都県でも玄武の犯行と思われる被害が報告されている。個人宅はほとんど狙わず、小さな事務所や工場で、金庫や高価で売買されている金属類、備品を盗み出す。何人か逮捕者も出ているが、末端の実行犯だけしか捕えられず、幹部やリーダーは顔も名前も判明していない、とのことだった。
「……その窃盗グループが、チャイエス出店させたって、なんでわかったんです?」
晃司が合田に訊く。その顔は刑事のものだ。
「他の中国人組織の間でちょっとした噂になってたんだ。お前ら生安課の奴らは知ってるだろうけど、チャイエスってのは多くが中国人組織が絡んでる。マフィアだったり、そうでなかったりは色々だけどな。で、そいつらは同業者を大体把握してるんだ、狭い世界だから。新しくできた店もどこの組織が出したか情報が回るんだが、荒間駅にできた店は最初誰もどこの組織が関わってるかわからなかったそうだ。で、噂になって奴らが調べてみると……突然『玄武』の名前が出てきた」
「新しい参入業者はやっぱり煙たがられるんですか? 競争激しい業界だ。商売敵には厳しいんじゃないですか」
「それがそうでもないんだ。現状のチャイエスってのはさ、北荒間の風俗店なんかと違って、出店した組織が経営に関わったり、売上をピンハネするシステムじゃないんだよ。最初にパッケージで店を丸ごとオーナーに売っちゃうんだ。出店する物件、内装まで出来上がった店舗、経営マニュアル、オープニングスタッフの求人、なんかもまとめて。ケツモチ、元締めってより……コンサルタント、に近いのかもな。それで売った後はほとんど関知しない。関わるとしたら、タオルの業者や店で使う備品の業者に組織の傘下の業者を宛がうくらいだ。それも契約は必至じゃないし、後から店が他の業者に変更しても問題なしだ。だから、暴力団みたいにシマの奪い合い、みたいなのはチャイエスに関しちゃ起きないんだよ」
「随分、アッサリというか……合理的なんですね」
桂奈が感心したように言う。
「大陸の奴らは合理的だよ、徹底的にコストカットして利益重視だ。……でもな、そうは言ってもポッと出がいきなり始められる商売でもない、チャイエスなんて。日本の法律すり抜ける方法も熟知してないとならないしな。餅は餅屋、だろ。だから本土でも、日本に来てからも窃盗専門だった玄武が突然チャイエス出店に関わったのは、大いに違和感があるわけだ」
「……それで合田さんは、玄武の組織としての突然の変化に興味を持った。玄武が組織拡大を図ろうとしているなら、見過ごせないってことですか」
晃司が問うと、合田はニヤリと笑んだ。
「んん~、まぁそんなとこだ。で、そっちは? チャイエスの入ったビルのオーナーの中国人が行方不明なんだろ? その後なんかあったか?」
これには桂奈が答える。オーナーの娘が渦中のエステ店にアルバイトとして潜入していること。そのオーナーの娘とともに実家を訪ねると、空き巣に入られていたこと。しかし荒間署刑事課は空き巣を失踪した社長の自作自演だと疑っていること、などを教えた。
話を聞くうちに、合田のニヤけた顔が引き締まって険しくなった。
「……なんだそれ。刑事課の奴ら、随分杜撰だな。他によっぽどデカいヤマ抱えてるのか? それとも、外人の失踪事件なんて面倒だとか思ってんじゃないだろうな」
「そう、疑っちゃいますよねぇ? 調べるようには頼んでますけど」
「その……チャイエスに潜入した娘ってのも、本人は父親のことが心配で必死なんだろうけど、危険なんじゃないか? 父親は何らかのトラブルに巻き込まれて、自宅に空き巣が入った、て考えるのが妥当だろ。父親自身も最悪拉致されたか……自分で身を隠したにしても、逃げたんだろ。そんな危ない奴らに父親が追われてるか捕まってるとしたら、娘もなにされるかわかんないぞ。……そっちのフォローはどうしてんだ」
大輔は意外に思った。晃司に色目を使うセクシーゴリマッチョな合田が、桂奈から話に聞いただけの結花を、心から心配しているようだったからだ。
「お店に出てる間はうちの誰かが交代で見張って、それ以外の時もなにかあったらすぐ連絡するようには伝えてますけど……」
「それだけで十分なのか? 店に出てる間や大学にいる間はともかく、家は? まさか空き巣に遭った自宅には住めないだろ」
「娘さんは、都内のアパートで一人暮らししてるんですよ。実家とは距離があるので……大丈夫かな、と」
「お前らものん気だなぁ。実家に押し入られたってことは、娘の自宅もバレてるかもしれないだろ。……親父だけじゃなく、娘にまでなにかあったらどうするんだよ」
「それは……刑事課が事件として扱わないのに、あたしたちにはどうしようもなくて……」
桂奈が困ると、合田は押し黙った。晃司に色目を使う――ここが問題――のくせに、会ったこともない結花を心配したり、困った桂奈を強く問い詰めたりはしないので、女性には優しい性分らしい。
大輔は合田の本質がわからなくて頭を悩ませた。
「まぁ、桂奈をイジメてもしょうがないか。でも……その娘、心配だよな。なんもないとしても、不安には思ってんだろ、母親や祖父母は亡くなって、頼る親戚もいないんなら。……若い女がかわいそうだよな……」
合田が優しいのは間違いないようだ。自分の娘のように、会ったことのない結花を心配しているのだから。
しばらく合田が考え込み、その間、打つ手のない生安課の三人は黙っていることしかできなかった。すると唐突に合田が、そうだ、と明るい声を上げた。
「だったらその娘、今夜からうちに連れてこいよ。しばらくうちに泊めてやるから」
「ええええ?!」
仰天して声を上げたのは大輔だ。合田は、晃司と同じタイプだったのだ。男性も女性も――そうでない人たちも――愛せるタイプ。
「だっダメですよ! 二十歳の女子大生を、中年男性の家に泊めさせるなんて!」
こんなセクシーゴリマッチョに襲われたら、結花のような華奢な女性が抵抗できるわけがない。優しいのは表面上で、ただのスケベだったのだと鼻息を荒くする。
しかし合田は面白そうに声を立てて笑った。
「童貞はす~ぐエロいこと考えんなぁ」
「はいぃ?! いやらしいことを言ったのは警部補の方じゃないですか!」
「俺に下心はないよ。……女に興味ないんだから」
合田は軽やかに爆弾発言を投下して、カカカと笑い飛ばした。
大輔はポカンと合田を見つめた。
「童貞にはわかんねぇか、俺がさっきから晃司のこと熱~い目で見てたの。俺が惚れるのは、晃司みたいな……男らしくて逞しいイイ男だよ。あ、どんだけイケメンでも、恋もしたことないような色気のない童貞には一切興味沸かないから」
あまりの衝撃告白に、大輔は言葉を失った。やはり合田は晃司に色目を使っていた。それなのに――熱い告白をされた晃司は笑っている。
「大輔、気にすんな。合田さんはいっつもこんなこと言って俺で遊ぶんだよ」
「晃司、俺はいつだって本気だぞ。お前……ニューハーフもイケるくせに俺にはつれないよなぁ」
「いや~、俺よりゴツイ男はさすがにキツイっす。ほんと、すいません」
「も~、男二人でイチャコラしないでくださいよ」
桂奈も驚いた様子はなく、いつものことと言わんばかりで呆れるだけだった。
「合田さん、あたしもいくらなんでも二十歳の女の子を合田さんの家に泊めるのは賛成できません。合田さんに下心がなくても、倫理的な問題もあるし……なにより、二十歳の女の子が嫌がりますよ。父親と変わらない年の他人の男性の家に泊まるなんて」
「まぁ……そっか。それなら、お前らまとめてうちに泊まれよ。桂奈もいれば、若い女も安心するだろ? うち、無駄に一軒家だから部屋は余ってんだよ。楽しそうじゃないか? 合宿みたいで」
これには、大輔だけでなく晃司や桂奈も言葉を失った。
合田が驚く晃司を見て微笑む。晃司が初恋という大輔でも、ハッキリとわかった。合田がいきなり合宿生活を申し出たのは――晃司狙いだ。
「まあ……結花の安全を考えれば、それもアリですけど……」
狙われている晃司は、信じられないことに納得しかけていた。しかし女性の桂奈が断固拒否する。
「え、ナシでしょ。結花ちゃんがオッケーするわけないじゃないですか。……あたしだってイヤですよ、おじさんたちと共同生活なんて」
「なんだよ、桂奈までつれないこと言うなよ。みんなで合宿したら……俺と晃司のラッキースケベ展開を目撃できるかもしれないんだぞ? お前、今でも好きなんだろ……男同士の」
合田は大輔が知らないだけで、晃司とも桂奈ともかなり親しいらしかった。桂奈の特殊な趣味も知っているのだから。
「ええ~……ないです! 絶対ない! 合田×小野寺、小野寺×合田って……どっちもないです! 筋肉の圧がすごすぎて……無理!」
「相変わらず面白い女だなぁ、お前」
合田がカカカカと笑う。桂奈の変わった趣味も笑い飛ばし、父が行方不明になった結花を心配する合田は悪い男ではないようだが――いささかぶっ飛んでいる。
「あ~、笑ったら熱くなった。ここ、冷房効いてんのか?」
笑いながら、合田が高そうなジャケットをガサツに脱ぐ。大輔は――目を見張った。
(……デカ!)
ジャケットと同じ黒のベストの下の大胸筋が――パンパンに膨らんでいた。上質な布が中から筋肉に押し上げられて悲鳴を上げている。
思わず大輔は自分の胸を見下ろした。大輔だって少しは鍛えているが、合田の巨乳? を見た後だと、かなり貧相に感じる。
大輔は嫌な汗をかいてきた。晃司は女性の大きな胸が大好きだ。それは、男相手でも同じなのだろうか――。
(だから晃司さん、合田さんにナンパされてもイヤそうじゃないのか……)
大輔は――混乱していた。
「桂奈、その娘に聞いてみろよ。うちに泊まるかって」
「絶対断るだろうけど……聞くだけ聞いてみますね」
(……結花さん、お願いだから拒否して……)
大輔は願った。しかし、その願いが届かないこともなんとなく感じていた。なぜなら、普通ならよく知らない警察官たちと共同生活など嫌がるだろうが、結花はその中の一人、晃司に気があるようだから――。
「あ、でもあたし、彼女の連絡先知らなかった……」
「じゃあ俺が聞くよ。多分講義中だろうけど……メールなら返信あるだろ」
大輔の悪い予感は的中する。よりによって晃司が結花に訊ねる流れになってしまったからだ。
晃司が連絡すると、やはり結花は断らなかった。最初は躊躇ったらしいが、晃司も一緒だと知るとすぐに了承したという。
ありえない共同生活なのに、話はトントン拍子に進み、今夜から合田の家に泊まりこむことになった。
大輔にとっては試練の、オッパイと雄ッパイから晃司を守る――地獄の大人合宿の始まりだった。
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