食卓

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食卓

「昨日ありがと」 翌日もいつも通り、俺はホームルーム前のチャイムが鳴るギリギリに教室に入った。隣のチハルに声をかけると、寝ぼけ眼をこっちに向けてきた。 「母親、喜んでた」 「おお、そっか。良かったな」 突然生気が戻って、ニカッと笑ったチハルに、俺はカバンの中から出した封筒を渡した。 「なんだ?」 「親が、お礼にご馳走するから食べに来いって」 「い、いいって、そんなの」 チハルは困ったように眉間にしわを寄せて封筒の中身を取り出した。 そこには、昨日妹が遅くまでかかって作った招待券。模様のついたピンクや水色のテープ、星やハートのシールが貼りまくられた紙には、ギラギラに光るペンで『お食事券』と書かれている。 あいつ、ニュース聞いてもこの字に変換してそうだな。 チハルは感慨深げにその紙を見つめていた。 「この番号に電話掛けて予約するってことか?」 「あ、それ妹の電話番号。掛けなくていいから」 「なんだよ、妹、可愛いな」 ハハッと爽やかに笑うチハルに、俺は申し訳なく感じた。バカな妹ですまん。 「で、いつ来る?」 「あー、あぁ……」 急に言葉を濁すチハル。昨日も父親が帰ってきた時に感じたような違和感。 「俺、弟と食べなきゃ、だから」 もそもそ、と低い声で答えた。
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