母さんの好きなもの

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母さんの好きなもの

うわぁ、凄い! 食卓に並んだ料理を見て、母さんの第一声。 「今日は頑張ったのね」 「友達が来て作ってくれた。俺は手伝っただけ」 台所隣の居間でナイターを見ていた俺は、顔をテレビに向けたまま答えた。 「お兄ちゃん、8時から見たいテレビあるから」 相変わらず不貞腐れた妹がジャージ姿でやってきた。向かいに居座ったところを見ると、あと5分で絶対にチャンネルを変えるつもりなんだろう。 「友達って、女の子?」 椅子に座りながらの、冷やかすような母さんの声。 「いや、隣の席の男」 俺は7回の裏までの攻防を見納め、台所に行って母さんの斜向かいに座った。 「今度お礼に呼んだら? お母さんがその子の大好物作ってあげる」 「そいつ、料理上手だよ。ダメ出しされるかも」 俺が冗談を言うと、母さんは「大丈夫、ネットで人気あるレシピ見て作るから」と自信満々に言った。 隣の部屋でチャンネルが変わり、アイドルの声と黄色い客席からの歓声が響く。それを何となく聴きながら頬杖をついた。 「……ねえ、母さん」 嬉しそうに肉じゃがを頬張る母親を見て、俺は尋ねた。 「母さんの好きな食べ物って、なに?」
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