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フードファイト、スタート
とにかく広い。
横幅の限界は見て取れるが、縦幅の限界が、ぼくの目では確認することができない。
とにかく広いその会場には、5卓の縦長の机が用意され、そこに数えきれないほどの皿がのせられていた。
「ここはいったい」
「よう、ケン、久しぶりだな」
中にはフードファイターであるアメリカのデイビットが立っていた。
「遅いじゃないのよ」
そう声をかけてきたのは、中国出身のリンだった。
そして、遅れて中に入って来たのは、アフリカのダン、そして、ドイツのエミールだった。
「ぼくたち5人で、この5卓分を食べろってことかな」
ぼくが小さくそうつぶやくと、
「そろったようですね」
会場全体に声が響き、上空に宇宙人が現れた。
顔があり、目があり、鼻がある。2本の腕が頬杖をつくように顔に添えられている。下半分は見えないが、おそらく足もありそうだ。形としては人間に近い。ただ、顔は全体的に白く、頬のあたりが、青く変色している。
「ようこそ、我が歓迎の間へ」
「歓迎の間……?」
「我々は、この地球という新たな惑星と出会うことができた。しかもこうして交流している。実にすばらしい。この喜びを地球の方にも共有したい。ですから、みなさんをこうして歓迎の間へと招待したのです」
そういって、宇宙人がさっと手を挙げる。それを合図に、机の上の空だった皿が満たされる。
「私たちは美食家として有名なのです。食には絶対の自信があります。これらの食事を美味しく味わっていただき、お腹一杯になってもらう。それが私たちの幸福です。ですが」
宇宙人の顔が急に険しくなった。
「私たちのもてなしをないがしろにする愚か物もいます。私たちはこの美食の数々が無残に残されることに、激しい怒りを覚えます、ですから」
宇宙人の顔が、元の柔和なものに戻る。
「みなさんには、ここにあるすべてを召し上がっていただきたいのです。それにより真に我々の友好関係が築けるというものです」
「もし、食べ切れなかったら?」
デイビットが口をはさむ。
「その場合は、この惑星を破壊させていただきます」
ごくり、と全員が息を飲んだのがわかった。この惑星が破壊される。
「なあに、たかが2、3人前ほどです。採取したデータから地球人はあまり食が太くないということがわかりましたので」
「こっちにハンデをくれるってことか」
「ええ、もちろんです。あくまでも私たちは、みなさんに我が惑星が誇る美食を堪能していただきたいだけですから」
「なるほどな」
デイビットが納得したように首を縦に振った。
「とにかく、5人で5卓。1人1卓食べればいいってことでしょ」
「うん」
リンに従い、ぼくたちは席へと座る。5卓に並べられた机の右からぼく、デイビット、リン、ダン、そして一番左がエミールとなった。
「ルールは、この食事をすべて召し上がっていただくこと。途中で吐いたり、排せつを行うことは禁止とします。あとは……」
そう言って、宇宙人が考え込む。
「時間制限は特に設けませんが、3時間。この惑星の時間で3時間、選手が手を止め、1口も召し上がらなかった場合は、その方を失格とさせていただきます。何かご質問はございますか?」
「とくにない」
デイビットがそういう。
「さあ、始めようぜ」
「ではそのお言葉に甘えて、始めさせていただきます。我々の最高のおもてなしを」
宇宙人がそういうと、目の前にナイフとフォークが出された。
ぼくたちはそれを手に取る。
「いただきます」
こうして、ぼくたちの戦いが始まった。
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