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異変
「うっ」
突然、口を抑え、エミールが体を丸めた。
それを引き金にし、ぼくたちはいっせいに口を抑えた。
急激に胃が重くなるのを感じた。
まるで、食べたものが胃の中で膨張したかのように。
「おい、これはどういうことだ!」
ぼくたちの異変を察知したのか、アメリカ大統領が叫ぶ。
「何か、毒物でも混ぜたのでは!」
「いやいや、そんなことはありませんよ」
そういいながら、ビストリアンが姿を現した。
ぼくたちはそれを見上げようとするが、あまりの胃の重さに、顔を動かすことすらままならない。
「私たちのモットーは、美味しいものをお腹一杯に召し上がって頂くことです。彼らはすでにお腹一杯になったのでは?」
ビストリアンはそういうと、にやりと笑った。
「ふざけるな」
会場がブーイングで包まれる。
ぼくたちは手を動かすことすらままならない。
一体、どうしたらいいのだろうか。
「あわてることはない」
青柳先生が、ぼくたちにささやいた。
「まだ時間はたっぷりとある」
そうだ、3時間。3時間以内に、食べるのを再開すればいいのだ。
「これだけの素晴らしい料理を食べられるおまえたちは幸せ者だ。必ず相手の言葉に応え、完食しようではないか」
その言葉に、ぼくたちはうなずいた。
まだ3時間ある。
それまでに、体調も少しは回復するだろう。
それから2時間と30分。ぼくたちは手を止め調整に入った。 先程に比べ、だいぶ調子が良くなっている。
ぼくたちはまたゆっくりと食べ始めた。
しかし、エミールの手が止まっている。エミールの量は半分を少し過ぎてから、ほとんど動いていない。
「うっ……」
「ああああああああ」
その瞬間、会場が大きな悲鳴に包まれた。
エミールが、吐き出したのだ。
「あらあら、残念ですね」
ビストリアンが、上空に現れる。
「エミールさんは失格となります」
エミールの方を見ると、ピクリとも動かない。顔は青ざめ、まるで死んでいるかのようだった。
すぐに担架がやってきて、エミールを別室へと運んでいった。
「おい、どうすんだよ」
デイビットが、ぼくに話しかけてくる。
「どうするって?」
「エミールの分も、誰かが食べなきゃならないんだろう」
そうだった。エミールが残したあと半分ほどの料理を、ぼくたちのうちの誰かが食べなければ、この試合、勝利にはならない。
「おれは、自分の分はいけるが」
デイビットがそういう。
「ほかにもっていわれるとな……」
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