39人が本棚に入れています
本棚に追加
modus: nil admirari
薄氷は 天と地とを隔てていた
それだけだった
それだけでいられなくなったので
私は境界を踏み割って
凍土へと墜落しながら手をのべた
差し迫る影の形をなぞり
それを憶えておきたいと
ささいな執着を愛しながら
砕けた
そうしてやっと
地面のかたさを知りつくして
寝息を狙う白百合に
濡れた手形を残して起き
したかったことをしようと立った
私の望むやりかたを
私自身に許してやった
だってそのために降ってきたのだ
遠く 逆さまで 裏返しの影に
君に
求められていると気づいて
どうして
同じところへ立たずにいられただろう
残った指を折られながらも
みぞれの重みに逆らうことを
試みないではいられなかった
この先 誰の手もとれないで
いつか くずおれると知っていて
それでも いま
いまだけは
受け止めなければならなかった
向かい合い 胸をあわせて
君とつぶれてしまうのは
そのあとでなければならなかった
成し遂げたあとであるべきだった
あまりに雄弁な君の破片を
もし 黙らせておけたとすれば
それは冷害の再来で
無感動なあの空へ
やはり帰るべきということだから
そうならないようにしたかった
それだけだった
最初のコメントを投稿しよう!