水耕の花

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水耕の花

水面(みなも)を打つ すべては幾重もの輪を置いて沈む 広がる円を数えながら どれほどかたく(いまし)められていたのかを知る ――したい ――こたえたい ――できるはずだ ――なしとげなくては ――きみはきっと ――きみのため ――きみを 「き み を 愛 す る」 水は誘引する 解き放たれた心を 無音の底で抱きとめる 抱擁のうちに 単純とも 複雑の極みとも呼んで間違いないような 成熟した幼さは変身する 潤ったつもりになって 眠りに溺れる砂礫(されき)の一粒に あるいは 親和性を疑って 差し込む光を這いのぼる根に 緊縛を懐かしむように それは再び輪をくぐり 空気のなかに花ひらく ひとたび戻れど 何度でも たわむ地面は 痙攣(けいれん)的に ふちにあるものを突き落とす 水はいつでも満ちている 白い根をのばし 咲きかえる花が 涙を(かて)(ながら)える花が これほどあるのに なぜだろう なにが指標となり得るのだろう 花が吸いつくせなかったものを いつか 積もる砂礫が埋めたてたなら
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