入れ子の蛹

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入れ子の蛹

成熟した姿を見定めないまま どろどろの「未来」を詰めた 殻に入って 人という名の (さなぎ)になった 生まれ落ちたら いつか羽化するはずではあるが 相変わらず どんな姿になればいいやら分からない ただ誰か 自分の形の正解を 見いだしたらしい誰か、が それじゃだめだ などと言うので 殻の中 首を傾げた私を だめだったことにして 私は新しい蛹になった けれども今度は よりにもよって私自身が これじゃだめだ などと言うので 殻の中 首をくくった私を だめだったことにして また新しい蛹になった そうして何度 殻を作ったものだろう いちばん最初に着たのを脱げずに 気づけば 奥に潜りすぎていた 外に出ようとした たしかにそのつもりではあった でも知らぬ()に 新たな殻を内側に また内側に それではいつまでも 外に出られやしないからと だめだったことにしたものを 本当にだめにすることにした 一か十しかないけれど  いつか正しい形になれるなら と だめだった殻を 握りつぶした 正しい形になれれば良かった それはすべての間違いを 正しきった先にある ただ一つ 揺るぎない姿であるはずだ なのに 今日になって だめだった私から この手で壊した蛹から 生まれてくるはずだったものこそ  正しかったような気がしてくるのだ いつかの私は 素直すぎて他人を害した 今日の私は 口をつぐんで傷ついている あの日の私は 夢を見すぎたゆえに転んだ 今日の私は 足元に気をとられすぎている 一昨日(おととい)の私には欲しいものがあった 今日の私は 全部誰かにあげていいと思っている 昨日(きのう)の私は幸せになりたかった 今日の私は 伸ばした手の先がとろけてしまっている また何か 別の姿には なれるだろうが 結局 最初にして最後の 固い殻の一枚だけが 破れないまま 羽化して何になるべきか 分からないまま 不定形の指先をもて余す 次の私も 成熟しない そんなことに 気づいてしまう 半固形の 「未来」とやらをまさぐって 殻の中で繰り返す この足掻きを 成長 とは まだ 呼べない
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