黒ヤギさんからお手紙着いた

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「な、なにこれ……」  何か目的があってというよりも、いつもの習慣でなんとなくスマホを確認したわたしは、おびただしいSNSのメッセージ通知の量を見て唖然とした。  メッセージを開かなくとも通知の見出しだけで内容は充分にわかる……スマホの画面には、「さっきの手紙のご用事なあに? さっきの手紙のご用事なあに? さっきの手紙のご用事なあに? さっきの手紙のご用事なあに? …」と、同様の短い文章の羅列が並んでいる……。 「き、気持ち悪っ……」  ただの悪戯にしても、なんだか異常なまでの悪意あるしつこさを感じる。わたしは慌ててSNSを開くと、そのアカウントを完全にブロックした。 「これでよしっと……」  誰の仕業にせよ、ブロックしたのだからもうメッセージを送ることはできないだろう。  SNSの機能からそう確信的な安心感を抱いたわたしは、今度こそ本当にこの気味の悪い出来事のことをいつしか忘れ去っていった。  実際にその後、〝黒ヤギさん〟からのメッセージがもう二度と届かなかったことも、それには大きく影響していたように思う。  …………ところが。 「――手紙? 珍しいな。誰からだろう?」  それから数日たったある日のこと、わたしは家のポストに入っている一通の封筒を見つけた。  表書きは、上手いとも下手ともいえない特徴的な手書きの文字で、わたしの名前宛てになっている。  玄関先で小首を傾げ、怪訝に思いながら裏返しにしてみると……。 「ひっ……そ、そんな……」  そこには、〝黒山羊〟と差出人の名前が記されていた。  〝黒ヤギさん〟からのメッセージに返信しないと、今度は家に本物の手紙が届くようになる……まさに、都市伝説で言われているとおりだ。 「そんな、そんなバカなことあるわけ……」  血の気のひいた冷たさと筋肉の強張るのを全身に感じながら、ひっくり返してもう一度、表面を確認してみる。  そこには切手も貼ってないし、もちろん消印も押されてはいない。  そんな、都市伝説で言われているようなことが現実にあるわけがない! これは、きっと誰かの悪戯に決まっている! 切手も消印もないのはその証拠だ。誰かが郵便ではなく、直接、家に来てポストに入れていったんだ。そうだ。そうに決まっている!  わたしは自分に言い聞かせるようにして、そう無理矢理に考えようとする。  ……でも、悪戯にしてはずいぶんと手が込んでいすぎやしないだろうか?  SNSのメッセージならともかく、わざわざ家に来て手紙を置いていくだなんて……わたしの家を知ってるってことは、親しい人間の内の誰かってことになると思うんだけど、ここまでするような人なんて……。  それよりも、むしろ都市伝説のとおりに〝黒ヤギさん〟からだと考えた方が……。  ふと頭に浮かんだその疑問が常識的な判断への疑いへと変わり、さらにその疑念が心に巣食う恐怖を倍増させてゆく。
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