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「そんな。そんなことありえるわけない……」
その恐怖を打ち消したくて、わたしは乱暴に封筒の縁を力任せに千切ると、急いで中の手紙を開いて見ようとした。
白紙なのか、それとも「ドッキリ大成功!」とか「や~いだまされた~」とか優越感に浸るくだらない文言が書かれているのか……いずれにしろ、それが本物でないことを確信したかったのだ。
しかし、その直前で、わたしはその手をぴたりと止めてしまう。
都市伝説で言われているとおりなら、その手紙は「読まずに食べなければならない」のだ。
そんなバカなことあるわけがない……そうは思うけれど、もしこれが本当に〝黒ヤギ〟さんからの手紙だったのだとしたら……。
万が一のその可能性が頭の中を支配すると、わたしはその恐怖に抗うことができなくなってしまう。
「…ハァ……ハァ……はぐっ……んぐ…んぐ……ゴクン……ハァ……ハァ…」
わたしは逸る気持ちを抑えつつ、家族に見つからないようこっそり台所へ行くと、中を見ないように注意しながら手紙をヤギのようにむしゃむしゃと食べ、そして、コップに汲んだ水で一気にそれを飲み干した。
……後味はもちろん最悪だけど、これで少しは恐怖が薄らいだ……次は、やはり童謡のとおり、「さっきの手紙のご用はなあに?」と〝黒ヤギさん〟へ返事を返さなければ……。
……いや、待って……返事ってどう返せばいいの?
当然、宛先なんて知らないから手紙は出せっこないし、あのSNSは一旦、ブロックしてしまうとやりとりの履歴も相手の情報もすべて消えてしまうので、メッセージを返すこともできない。
「ど、どうしよう……」
打開策をいろいろ考えたが、現状ではどうすることもできない……で、でも、ちゃんと手紙を食べたんだし、もしかしたらこれで許してくれるってことも……。
わたしはそんな希望的観測を無理矢理に抱いて自分を言い聞かせると、とりあえずは様子をみることにした。
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