16人が本棚に入れています
本棚に追加
俺が年末年始の郵便配達のバイトを始めたのは去年からだ。俺の叔父さんが郵便局員だったので、頼まれて仕方なく、という感じだが。
過疎の山村で高齢化も進んでいるが、年寄りにとって年賀状のやり取りは冬の一大行事なのだ。だから配達にもそれなりに人手が必要になる。
もっとも、俺も去年はまだ原付の免許がなかったので、配達は徒歩と自転車で行ける範囲に限られた。しかし山奥の集落を歩いて回るのは、雪がなくてもかなりしんどかった。今年はホンダ MD50、通称「赤カブ」が使えるので本当に助かっている。
今日は冬休みの最初の日。年賀状の配達はまだ始まっていないので郵便の数は少ない。十分集配カバンに収まる範囲だ。
曇り空の下、配達順にソートされた郵便の束が入っているカバンを赤カブのフロントキャリアに固定し、俺は次々に家を回って郵便受けに郵便を入れていった。
そして。
鳴瀬 芙由香の家の前で、俺はため息をつく。
俺の手に握られているのは、白い封筒。だが、そこに書かれた宛先は、彼女の家の住人ではない。高坂 晴人――「ハル兄」の住所と名前だ。そして、その上には……赤い、「あて所に尋ねあたりません」というスタンプが押されていた。つまり、この手紙はあて先不明で戻ってきたのだ。
集配カバンに収める時に俺はこの手紙の存在に気づき、それ以来ずっと憂鬱だった。
一体これを、どうしたものだろうか……
%%%
最初のコメントを投稿しよう!