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やがて、ため息のような声が、彼女の口をついて流れ出る。
「私だって……怖かったよ……だから、ずっとためらってた……でも、明尚に見られて、パニックになって、まずい、早く死ななきゃ、って、思って……」
……。
なんてことだ。知らず知らずにまた、俺は彼女を死に追いやろうとしてしまったらしい。
だけど。
ようやく彼女の本音が見えた気がした。やっぱり、彼女だって本当は死ぬのが怖いんだ。
「だったらさ、芙由香……もうちょっと、生きてみたらいいんじゃないか? 死ぬのなんていつでも出来るんだし」
「……え?」
「今のお前はハル兄なしじゃ生きていけない、って思いこんでるのかもしれないけど……月並みな言い方だけどさ、世の中の人間の半分以上が男なんだぜ。ハル兄よりもいい男だって、絶対いるはずだ」
「……」
「だから、もう少し生きて、そういう『いい男』を探して捕まえたらいいんじゃないか? 案外すぐに見つかるかもしれないぜ。そうすればハル兄も見返してやれると思うし」
「……!」
かすかに芙由香が反応する。彼女が死に場所にここを選んだのは、ハル兄に対する当てつけの気持ちもあるんじゃないか、と俺は何となく思っていた。やはりそれは正しかったようだ。
「……でも、ハル兄以上の男なんて……どうやって、探したらいいの?」
芙由香が、ポツリと言った。
「そうだなあ。例えば、YouTuber になるってのは? お前はそこそこかわいいんだからさ、顔出しでやれば人気出るかもしれないぜ」
「……」
しばらく芙由香は黙ったままだったが、やがて、ふっ、と空気が抜けるような音をさせてかすかに笑った。久々に見た彼女の笑顔だった。
「明尚、やり方、教えてくれる?」
「ああ。もちろん」俺も笑顔を返す。
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