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俺たち三人はいわゆる幼馴染みだった。俺と芙由香が同い年でハル兄だけ一つ年上。特に小学生の頃はよく三人で遊んだものだ。
俺はずっと芙由香が好きだった。だが、彼女が好きだったのは……俺じゃなく、ハル兄だった。それはもう、あからさまに。だから俺は彼女に告ることもなかった。結果が見えてたからだ。ハル兄はイケメンでかっこいいし、優秀でスポーツも出来た。どう考えても勝てるわけがない。
そして俺が中学三年に上がってすぐ、とうとうハル兄と芙由香は付き合い始めた。
ハル兄は市内の高校に通うために下宿していたが、中免を取って中古のヤマハSRX250を買ってからは、ちょくちょくこちらに帰ってきてタンデムで芙由香とデートしている姿を見た。
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その日、俺は棚田の風景を撮ろうとカメラを持って自転車でフラフラ蛇行しながら二子山を登っていた。しかし、頂上の駐車場に黒いSRXが停まっていたのを見た瞬間、俺は心臓が締め付けられるような感覚に襲われた。
そして、俺は見てしまった。
展望台。そこでキスしている二人の姿を。
分かっていたはずなのに、いざ目の当たりにすると……予想以上の衝撃だった。
俺はそのまま自転車をUターンさせ、峠道のワインディングをフルスピードで下っていった。それでも、ハル兄のSRXよりは全然遅い。
そうだ。俺は何もかも、ハル兄にはかなわない……
視界が滲む。瞬きをすると、風圧で目尻から引きちぎられるように涙が後ろに飛んでいった。
涙が出るのは風が俺の目を刺激しているからだ。泣いてるからじゃない。俺は、泣いてなんかいない……
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