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それからの芙由香は、まるで人が変わったようだった。
虚ろな目でぼーっと窓の外を見ていることが多くなった。友だちと談笑していても、心から楽しそうには見えなかった。どこか無理をしているようだった。
そして、十月。
久々に芙由香からLINEがあった。ハル兄と全く連絡が取れないので彼の下宿に直接行きたいのだが、一人で行くのは怖い。だから、次の連休に一緒に行って欲しい、と。
待ち合わせのバス停。芙由香は見るからにやつれていた。バスの中でも終始無言。俺が話しかけても会話が続かない。
ハル兄の下宿は彼の高校からほど近い、賄い付きのアパートだった。二階に上がり、芙由香が彼の部屋のブザーを鳴らす。だが、全く反応がない。居留守なのかと思ったが、よく見ると駐輪場に彼の SRX がない。どうやら本当に留守のようだ。
俺たちはそのまましばらく彼の部屋の前で待つことにした。やがて、シングルシリンダーの低く断続的な排気音がして、二人乗りの黒の SRX が駐輪場に入ってきた。
二人がバイクを降りてヘルメットを脱ぐ。運転していたのはハル兄。そして、その後ろにいたのは、かなり派手に化粧をした女だった。高校生とは思えない。体付きはかなりグラマラスだ。
二人はイチャつきながら階段を上ってきたが、俺たちに気づいた瞬間、ピタリと足を止める。
「ナツミ、もう少し走ってくるか」
そう言ってハル兄は踵を返した。ナツミ、と呼ばれた女がジロリと芙由香を一瞥し……ふふん、と鼻で笑うと、ハル兄の後を追って階段を下りていく。
「ハル兄! 待てよ!」
思わず駆け寄ろうとした俺は、ぐい、と左腕を掴まれてその場に引き留められる。
「……え?」
芙由香が俺の左腕を両手で掴み、左右に首を振っていた。
「いいよ、明尚……もう、いいよ……」
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