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その後の芙由香は、表向きは吹っ切れたようだった。だけど……彼女と長い付き合いの俺には、それが偽りであることが良く分かった。ふとした拍子に見せる、無表情な顔。輝きを失った虚ろな瞳。
彼女は何も吹っ切れてなんかいない。でも……俺は彼女の何の力にもなれない……
そんなふうに俺が自己嫌悪に陥っているうちに学校は終業式を迎え、冬休みに入ったのだった。
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やっぱり、芙由香はまだハル兄のことが忘れられないのだ。電話もLINEもSNSもシャットアウトされた彼女に残された唯一の連絡手段である、手紙。しかし、それすらもこうして返ってきてしまった。おそらくハル兄は引っ越したのだろう。郵便物の転送手続きもせずに。俺と彼女が突撃したからなのかもしれない。
この手紙、本当に彼女に届けるべきなんだろうか。
いや、もちろん郵便局で働いている俺としては、届けるのが義務だ。だが……それによって彼女が被る精神的ダメージは、果たしてどれほどの物なのか。俺には想像できなかった。場合によっては取り返しの付かないことになってしまうかもしれない。
だったら、そのままこの手紙を届けずに処分してしまうか? それは当然犯罪だが……少なくとも彼女の心の平穏は、しばらくは保てるだろう。
だけど……
それで、いいんだろうか。
……。
さんざん迷ったあげく、結局俺は、彼女の家の郵便受けにそれを入れてしまった。
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